君に誘ってもらえた奇跡

 篠沢さんから連絡が来た。

「志水さんは幻の千秋線(せんしゅうせん)って知ってますか?」


「知っています。」


「最後のイベント行かれましたか?」


「行きました。」


「そうですか。じゃあ今度の日曜日空いてますか?」


「うん。」


「じゃあ、凛洞線(りんどうせん)の夕透駅(ゆうすきえき)に11頃、古河駅から乗ってきてください。」


 意味のわからないことを篠沢さんは書いてきた。

 気になったので色々と返信もしてみたが、既読すらつかなかった。



 そして日曜日、僕はローカル線「凛洞線」の古河駅から、九時五十六分発の小豆色にクリーム色のラインがオシャレな電車に乗った。夕透駅は七つ先の駅だ。

 中には四、五人しか乗っていないように見えた。向かい合わせになっている席には、おじいさんとおばあさんが座っていてとても楽しそうだった。普通の座席には中年のおじさんが二人と女性が座っていて・・・あれって篠沢さん?

「あの、篠沢さん?」

 篠沢さんは顔をあげて耳からワイヤレスイヤホンを取った。

「お久しぶりです。志水さん。ちゃんと乗ってくれて良かったー」

「当然ですけど・・・」

「まぁ、向かい側に座ってください。」

「えっ?」

「いいから早く。」

 篠沢さんがあまりにも真剣な顔で言うので「はい」と答えて言われた通り向かいの席に座った。


 篠沢さんは、またイヤホンをつけて俯いてしまった。


 ふと、思い出した。

 凛洞線に乗ったのは二回目だ。

 1回目は、たしか高校2年生だった。凛洞線の夕透駅でイベントが開催されていたのだ。そのイベントは電車で行くと缶バッチがもらえたのだ。そのために、僕も電車に乗ったのを覚えている。

 そういえば電車に、小学生くらいの子がカバンにたくさん電車の缶バッチ付けてて、降りた時に千秋線の最後のイベントでもらった缶バッチをあげたんだった。あの子、かわいかったな・・・名前知んないけどまた会いたいな。



 この凛洞線の魅力は自然とトンネルだ。

 かなり昔に手掘りで作ったトンネルを三つくらい通るので、涼しさも感じられる。他にも、まるで森の中を通るような緑でできたトンネルもある。

「きれいだな〜」

 そう小声で言わざるを得ない美しさだ。

 向かい側をふとみると篠沢さんも外を眺めていた。


 1時間ほど経って「次は夕透駅 夕透駅」というアナウンスがあった。

 駅のホームが見えてきた。

 電車が止まると白い駅名標が見えた

【ゆうすき駅 → 凛洞あい駅】

 それぞれ「すき」と「あい」の部分が赤いハートで囲ってある。

 ちなみに凛洞あい駅の「あい」は「吾唯」だ。


 電車を降りると篠沢さんが

「何か、思い出してくれましたか?」

 と言った。その顔は、真剣で、期待しているようで、泣きそうで・・・さまざまな感情が入り混じっているようなそんな顔だ。

「えー・・・」

 僕が困っていると篠沢さんは

「高校2年生 缶バッチ 小学生の女の子」

 と言った。


「まさか・・・」


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