君と話せた奇跡

 電車に揺られながら、思った。

 なぜ僕は、この名前も知らないこの子に惹かれているのだろう。

 ・助けられたから

 ・手を握られたから

 ・可愛かったから


「なんか知ってる子な気がするから」



 電車に揺られて十五分

 四つ目の駅であの子と一緒に降りた。

 その子は駅を出て右の坂道を上り始めた。

「こっちです。多分・・・」

「んっ・・・?」

「ちょっと待ってくださいね」

 その子は立ち止まり、スマホを見た。

「あー良かった。合ってました。行きましょう。」

 ニコッと笑う顔を見て、僕は少し顔が赤くなった気がする。

「うん」

 そうして坂を登っていき、高台へ着いた。そこには大きな木があり、その下に白い壁に柱がミントグーリーン、窓が洋風でとてもおしゃれな建物が建っていた。

「行きましょう。ここが、『丘の上カフェ 晏(アン)』です。」

 いかにも「映え」を意識する女子が来そうな店だな〜と思いながらも、カフェへ続く小道を歩いた。

 扉を開くとチャリンチャリーンという音と共に、若い女性店員さんの「いらっしゃいませ。」という声が聞こえた。

「二名様でよろしいですか?」

「はい。」

「では、こちらへどうぞ。」

 案内された席は、窓際向かい合わせの二人席だった。

 店内には月曜日ながら、女性客が何組かいた。その女性客たちは、この席に座る僕らのことを横目で見ながら何か言っている。

「すみません。私がこういうお店に連れてきてしまって・・・」

「いっいや、別に。僕はこんな素敵なお店知らなかったですし。新しい発見です。」

「それなら、良かったです。」

 店内には、ポップ・ミュージックがとてもいい音量で流れ、コーヒーのいい香りが漂っている。

 前に座るその子は、メニューを見てサンドイッチとココアを頼み、僕はサンドイッチとコーヒーを頼んだ。

 食べたり飲んだりしながら僕らは話をした。

「言うの忘れてました。僕は、会社員の志水苓です。」

「私は、降矢(ふるや)高校三年の篠沢優希です。」

 お互いなぜか、会釈していた。

「降矢って結構遠いじゃん。」

「朝から電車を乗り継いで来ました。」

「てっことはさ、大事な用事でも合ったんじゃないの?」

「ここに来るのが目的でしたから大丈夫です。」

「あっなら良かった。」

 ここのサンドイッチはとてもおいしかった。

 野菜は無農薬栽培されたもので、パンは僕も小・中給食でお世話になった「takadaベーカリー」のパンだそうだ。

 食べ終わって、飲み物を飲みながら話をしていると突然

「あの、志水さんと私どっかで会ったことありませんか?・・・いっいや、顔見た時からずっと思ってたんですよ。なんかこの人見たことある気がするな〜って。」

「僕も篠沢さんと同じこと考えてました。でも、全然わかんなくて・・・」

 お互い考えてみたものの思い当たる節はなく、名前も聞いたことがなかったため、例えば『何かのイベントとかで顔を合わせたことがあるのかもしれない』という結論に至った。


 それから、LINEを交換して篠沢さんは、僕も時々行く主に小説を集めた図書館へ行き、僕は県立図書館へ行った。






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