世界の中の小さな奇跡
立花 ツカサ
君と出会えた奇跡
なんか、やけに暑かった五月のことだ。
都会と田舎の中心のような、この街に住んでいる僕は、毎日を結構楽しく過ごしている。
紹介すると、僕は志水 苓(しみず れい)だ。普通のサラリーマン。そして、毎日ローカル電車で通勤している。
別に、すごい特技とか趣味はない。でも、優しいとは思う。
でも、今まで彼女はできたことがない。出会いの少ない場所を選んだことは事実だが・・・
ちょっとだけ街に憧れる私。学校でも家でも陰キャの私。
名前は篠沢 優希(しのざわ ゆうき)高校三年生
毎日、廃線寸前のローカル電車で学校に通っている。
その時だけが私の幸せだ・・・
五月の暑さは、夏よりもこたえる。
多分、多くの人が気づいている。でも、あえて言う。それくらい今日は暑い。
この電車は、二両編成で湖の周りをはしる。
田んぼの中や、民家すれすれの場所を通って、景色はとても素晴らしいものだ。
なんやかんや考えていると、降りる駅へ着く。
定期券を駅員さんに見せて、一番新しいこの駅を出る。
今日は快晴、気持ちがいい。なんか、仕事がうまくいきそうな気がする。
田舎のくせに、夏になってないくせに、暑い・・・
電車に乗り、学校へ行き勉強をしてまた電車で帰る。
電車から見える景色は、素晴らしい。さまざまな緑の色に三十分間包まれ、時々見える川や神社の鳥居を見て、いつも綺麗だなと思う。毎日が違う景色になり、緑が毎日変わってゆく。
木造のレトロな駅に着いた。そこで降り、学校まで歩く。憂鬱だ。
「あ゛・・・明日休みじゃん・・・」
日曜日、高校からの友達二人と一緒に、昼食をカフェで食べて、ショッピングモールに入っている映画館で映画を見て、家へ帰ると電話がかかった。
「あっもしもし、母さんどうした?うん元気だよ。・・・あっそう・・・分かった。楽しんできてね。じゃあまた。」
明日は、母が見て欲しいものがあると言って一ヶ月ほど前から、田舎へ帰ってくるように言っていた。母はその街の病院に入院している。
だが、明日は友達が来てくれることになってしまったので来ないでくれと言うことらしい。
全く、勝手な母だ。
そして、明日は月曜日なのに休みを取っている。さてどうしようか。
・家でゴロゴロする。
・映画を一人で見に行く。
・図書館へ行く。
・本屋へ行く。
・ガーデンパークに行く。
この他にも色々考えたが、結局図書館へ行くにした。理由は、一人で行くなら、図書館が一番何も感じないからだ。そうしよう。
明日は、自由だ。この土・日で課題を終わらせ、明日は電車旅をする。
明日は、一ヶ月も前から練りに練った計画を実現できる。
・電車を三つ乗り継いで、カフェに行く。
・また電車に乗って、図書館に行く。
これだけだが、どの電車も1時間に一本電車が走るか走らないかなので、カフェのある地域の駅に着くまでに、3時間弱はかかる。
あぁ〜明日は最高だ!
今日は結構寝た。時刻は九時だ。
日はすっかり登り、カーテンの隙間からは強い光が差し込んでいる。
ロールパンを三つ食べ、黒いスラックスに襟なしの薄い青色のシャツを着て、久しぶりに黒縁メガネを掛けた。カバンに財布とスマホを入れて家を出た。
毎日使っている駅へ歩いて行った。今日は時間が遅いのでいつも見かける人はいない。だが、何人か人が待っている。
朝、七時
起きて、母の作った朝ごはんを食べて、白いブラウスに黒いゆったりとしたズボン、上からカーキ色のジャケットを羽織った。
そして、自分の自転車に乗って十五分かかる駅へ向かった。
駅に着き、切符を買うと電車へ乗った。
この電車は一両だ。人は、自分以外に三人しか乗っていない。
ガタンゴトンと音を鳴らし、時折電車がトンネルにぶつかりそうになったり、車体が壊れるような怖さのある音がしたりする。
でも、外から見える景色は、山、川、街並みで、緑はどれひとつとして同じ色はなく太陽の光を浴びてキラキラと光っている。川も同様、光を浴びてまるで魚の鱗のように光る。街並みは、茶色い瓦の家が立ち並び、生活感あふれる裏口が電車から見える。
電車を乗り換え、一番大きな駅に着いた。そこから、一キロほど歩くと湖の周りを走る電車の二番目の駅に着く。現在九時二十八分
この時間だから人は少ない。まあ、五、六人はいる。
『あ〜暇だな。あと二、三分で電車着くか・・・』
ぼーっとしていた。
『あっ、電車の音だ・・・』
少し前へ出た。黄色い点字ブロックぎりぎりだった。
ドンっ
「っ・・・あ゛っ・・・」
ホームから足が浮いた。ふわっとジェットコースターのような浮遊感があった。
ホームに、驚いた顔をした大学生ぐらいの青年がいた。
『あっ・・・僕死ぬんだな・・・』
そう思わずにはいられなかった。
バチンッ
手に、何かが当たった。
その瞬間、ぐいっと上に引っ張られた。
「そこの人っ・・・手伝ってくださいっ」
「あっ・・・」
また、もっと上へ引っ張られた。あの大学生のようだった。
そして、ホームの上になぜか僕はいた。
周りを見渡すと周りの人が集まっていた。
「あなた、大丈夫?」
「おぉ、兄ちゃん大丈夫か?怪我しとらんか?」
おばさんとおじさんが僕を見つめて言った。
「あっ、大丈夫です。」
すると、あの大学生ぐらいの男の子が土下座をしていた。
「ほんっとに、すみませんでした。僕が前をちゃんと見てなくて、お兄さんにぶつかってしまって・・・俺、警察に行きます。本当に、すみませんでした。」
僕は、どうにか座って
「やめてよ。怪我もしてないし。それに君が助けてくれたんだから・・・」
「違います。」
「えっ?」
「あそこの人がお兄さんを助けたんです。」
男の子は後ろの方で座り込み、何人かの人が心配そうに見ている女の子を指さした。
「あっ・・・」
考えるより先に、体が動いていた。
ホームの下へ落ちていきそうになる男性
このままでは後悔する・・・
その人の元まで行くと手を掴んだ。そして、力の限り引っ張った。
「そこの人っ・・・手伝ってくださいっ」
大学生らしき人に言った。するとすぐにもう片方の手を握り、二人で引っ張ってその男性をどうにかホームまで上げた。
息が切れ動悸がする。頭がガンガンと痛くなり何もできなくなる。
その場にうずくまり耐えようとした。
「あの・・・大丈夫ですか?僕のこと、助けてくださってありがとうございました。あなたは、僕の命の恩人です。」
手の隙間から少し顔が見えた。優しそうな人だ。
「そっ・・・そんなことはっ・・・なっ、ないです・・・」
辛かった。苦しかった。その人の言葉はとても温かかった。
「お嬢さんや、病院へ行った方がいいんじゃないかい?」
おじいさんが言った。すると、周りの人たちもそれに同意した。だが、
「大丈夫です。薬があるので・・・ご迷惑おかけしてすみません。」
と言った。嘘ではない・・・大丈夫だ、落ち着け・・・
数分後、電車が来た。
そこにいた人たちは、皆その電車に乗った。
なんとかあの大学生のくらいの男の子に、警察へ行くことをやめさせた。そして、あの僕を助けてくれた女の子にもう一度話しかけた。
「ちょっといいかな?」
「はっはい。」
緊張した顔をしているその子は、なんとなく知っているような顔だった。でも、誰だかわからない。
「さっきは本当にありがとうございました。僕は、あのまま落ちてたら、今生きていたかもわからない。君は命の恩人です。」
「いえ、とんでもないです。私一人では助けられなかったですし・・・」
「君が、手を掴んで引っ張り上げてくれたおかげだよ。」
「いえいえ。でも、あなたが助かって良かったです。」
「えっ?」
「なんでもないです。」
その女の子は、笑ってそう言った。
「・・・あの、お礼がしたくて・・・カフェとかどうですか?」
「そんな・・・いいですよ。あそこの場に立ち合わせただけなんですから。」
「いや、させてください。」
「ん〜はい・・・」
お礼というのは口実でもあった。この人の顔に見覚えがあったからだ。どうしてもこの人が、ただの赤の他人とは思えなかったし、なんかこの人を知りたいという欲望があったからだ。
「じゃあ、『晏(あん)』ってところがいいです。四つ先の駅の近くにあるんです。」
「分かった。」
「ありがとうございます。」
また、その子は笑って言った。
正直僕は、この名前も知らない子に惹かれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます