格の違い

[side クロス]


 俺とジェネルの戦いは泥沼化していた。


 「クッソ!なんだこいつ!?俺の拳がろくに効いてねぇ!」


 ジェネルは獣人特有の俊敏さを活かしたラッシュで俺に確実に攻撃を当ててくる。

 普通の人間が喰らえば骨を砕かれるほどの威力を持っているのだが、俺の肉体にはダメージを与えられないでいた。

 神のお墨付きをもらった肉体だ。そう易々と壊されるほど、柔な鍛え方はしていない。


 一方の俺は、自慢じゃないが駆け引きがめっぽう苦手なため、ジェネルの素早い攻撃を見切ることができず、拳は空を切ってばかり。


 お互いに体力だけが消耗していく中、焦れたジェネルは腰に装備していたダガーを引き抜いた。


 「ゼェッゼェ...クロスとか言ったな。お前に対する認識を改めさせてもらう。せいぜい痛めつけてやろうと思ったがアホらしい!そろそろケリをつけさせてもらおうじゃねェか!」


 それを聞いた俺は髪をかきあげ...


 「フフッ、やっとその気になったか...!

しかし貴様のような犬畜生がこの神々しき私に敵うなど笑止千万!この黄金の右腕が放つ一撃で躾を施してやろう!」


「「「「「「...え?」」」」」」


 唐突にイタイやつに豹変した俺に対するジェネルや群衆の空気が凍るのに絶望しながら、俺は体の主導権がすでに奪われていたことに気づいた。


 「久しぶりだなぁ!相棒!」


 『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』


────────────────────


[side ジェネル]


「なんだと...?」


 ヤツの様子が豹変したことに唖然としていた俺だが、言葉の意味を理解した途端、強い怒りの感情に突き動かされた。


 「この俺を...統括者たるこの俺を侮辱しやがったなァァァァァァ!」


 一瞬で背後に回り込み、ダガーで首を切りつけようとする。コイツの反応速度は決して速くない。

 しかし勝ちを確信した瞬間、俺は宙に投げ出されていた。

 信じられない。これ以上に遅い俺の攻撃を全く見切れていなかった人間に、俺は腕を取られて投げ飛ばされたのだ。

 周りで見ていた野次馬どもを越えるほど遠く飛ばされた俺は、体勢を立て直して木の幹にしがみつく。そのまま勢いを殺さずに幹を蹴り飛ばし、獣人特有の剛脚から生み出される爆発的な推進力を使って斜め上空からの突撃を仕掛けた。


 するとヤツは両手を広げ、不敵な笑みを浮かべる。


 「光よ爆ぜよ!"輝爆"」


 そして、わけのわからない言葉を放った。


 すると目の前には光り輝く球体が出現。その正体を理解したときにはもう遅かった。


 ───ふざけるなよ...!こんな筋肉の塊が、魔法使いだと...!?


 爆散とともに振り撒かれた強烈な光に視界を奪われた俺は、なすすべもなく腹に一撃を入れられてその場に倒れ込んだ。


 意識が遠のく俺に、ヤツは近づいてくる。

 

 「統括者よ。今回の件は私を弱いと侮ったお前の愚かさが招いたことだ。上に立つ者ならその傲慢さを捨てろ。なぜなら世の中には私のように美しく!凛々しく!そして完璧な人間が存在するのだからな。

...この私自らの忠告だ。ありがたく受け取った上で三日三晩吟味するといい。」


 ...めちゃくちゃ腹立つが、あんなガキに支配者としての在り方を説かれるとはな。


 ...情けねェな。俺は。


 そうして俺は意識を失った。


────────────────────


[side クロス]


 『ふむ。本日対象の制圧にかかった時間は約5分といったところか。相棒が初めての魔法戦闘を経験できたのもよかったな!しかしあのありきたりな初級魔法の使い方はなんだ、相棒!悪くはないが、もっと意外性がないと、知能の高い魔族には通用しないぞ?』


 ...言いたいことは山ほどあるんだが、その前に。

 謎詠唱とか統括者に説教したこととか諸々含めた羞恥によって蹲っていた俺だが、咳払いをして立ち上がった。


 「大丈夫ですか?俺はクロスといいます。

俺の魔法ではあなたの傷を完治させるのは難しいので、病院までお送りします。」


 座り込んでいた少女に声をかけると、一瞬顔を引き攣らせたが、すぐに安心したような笑顔を見せてくれた。

 ...レチタ人格が入った時の俺とのギャップに驚いたんだろう。無理もない。


 「本当に助けてくれてありがとう!私はルナ。ルナ=エリアル。討伐者なの!

この恩は必ず返させてもらうわ!」


 俺は笑顔で頷くと彼女を横抱きで抱え、歩き出した。


 「ひゃ!?ちょ、ちょっと私男の人にこんなことされるの初めてだから恥ずかしいかなぁ、なんて...」

 「...あぁぁぁ!すみません!俺今まで身近な女性って母様だけで、女性との接し方がよくわからなくて。嫌だったら下ろします!」


 顔を赤くしてワタワタする俺を彼女は見上げる。


「べ、別に嫌じゃないわよ...?」


 頬を赤らめ、猫耳をパタパタ振りながらそう言った。


 お互い何故か恥ずかしくなってしまった俺たちは、何も喋らず早急に病院に向かった。

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