アリア王国首都 エール
「おお...!壮観だなぁ!」
旅を始めて四日目の昼時、ついに俺は首都エールに到着した。
周囲に畑と森しかないような田舎に住んでいた俺には、目に映る全てが初めて見るものばかりだ。
王家の城を中心として広がる城下町には、レンガで舗装された道路、整然と並べられた街灯、道をうめつくすほど沢山の商店。
そしてなにより人間と獣人が混在して活気立っている状況。魔王の脅威に晒されているようにはとても見えない。
色々目移りしてしまうが、今は魔王討伐者本部に行き、討伐者登録をしなくては。
そうして手早く手続きを済ませ、討伐者としての身分証を受け取った俺は、ようやく討伐者の一員になることができた。
────────────────────
討伐者登録を済ませた俺は、街を歩きながら今後のことについて思案していた。
...あとはパーティーを組まないと。ただ、俺のような新参者がそう簡単に仲間を集められるだろうか。
そんなことを考えていると、前方に人だかりができていることに気づいた。
気になって覗き込んだ俺が見たものは、恐ろしい光景だった。
一人の少女が三人の男に袋叩きにされている。
赤い髪が目立つその少女は一見人間に見えるが、猫のような耳がついている。おそらく猫人とよばれる獣人だろう。
彼女は双剣で攻撃を必死に捌いてはいるが、多勢に無勢。顔や腕からは血が滲み、すでに満身創痍の状況だ。
一方三人の男のうち、二人は彼女が逃げられないように周りを囲み、武器で牽制。残りの一人である白毛の獣人が凄まじい速度で連撃を加えている。
それはまさに蹂躙だった。見ている者に恐怖を抱かせるような。
周囲の人々は誰も助けに行こうとしない。たしかにあの白い獣人はとても強い。怖くて足がすくむのも当然だ。
しかし恐れを振り払うように、父さんとの約束が俺を突き動かす。
そうだ。俺は誰かを助けたいんだ!
俺は人混みをくぐり抜け、一気に地を駆けると、こちらに気づいていない二人の男を奇襲。背後から二人まとめて殴り付けて昏倒させると、獣人の男に相対した。
「あァん?誰だテメェは?」
不愉快そうに声を上げた男は、二足歩行の巨大な狼、いわゆる人狼であった。
「俺の名はクロスという。そちらの事情も知らない俺が割り込んでしまい申し訳ない。
だが、ここで見て見ぬふりをするのは俺の心情に反するんだ。止めさせてもらう!」
そう言うと男は残虐な笑みを浮かべる。
「この俺に意見するってことは、テメェ新参だな?
俺の名はジェネル。東の討伐者ギルドを統括する"闇の白狼"、ジェネル様だ!」
そう名乗りを上げた。
ギルド統括者...聞いたことがある。
四つのギルドにはそれぞれに統括者と呼ばれる討伐者の首領が存在し、彼らの指揮の下で討伐者たちは団結して逆境の魔窟攻略に臨むのだそうだ。
すなわち彼は東ギルドの指揮官。そんな大物が何故エールに...?
「今日の俺はとてつもなくイラついてるんだ。あの王族のクズどもめェ...
憂さ晴らしの邪魔をしやがったテメェは生きて帰れると思うなよ!」
とてつもない殺気に前身が粟立つ。
後ずさりそうになる体をなんとか踏み留めて俺はジェネルを睨みつけた。
「ダメ...!とても勝てる相手じゃないわ!
私に構わず今からでも降参して...!」
傷だらけなのに目に涙を溜めて俺を気遣ってくれる獣人の少女。
悲壮な感情からか、耳はペタンと垂れ下がっている。
俺は彼女を安心させるために無理やり笑顔を作り、声をかける。
「大丈夫です。俺、体だけは丈夫ですから!」
そうして俺はジェネルに殴りかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます