原動力
あの後、何故か突然レチタの声が聞こえなくなった。
「...いや、もう飽きられたとかいったら流石に泣くぞ!?俺!!」
力を貸すのは気まぐれとか暇潰しとか言ってたけど、もう気が変わったとかないよな!?
俺は激しく狼狽して暴れた。
停滞し続けていた日常がようやく変わったと思ったのに!
ちょっと調子に乗って
「魔王討伐への第一歩を踏み出した──」とかレチタが言いそうなこと考えたからだぁぁぁ!!
絶望や羞恥の感情のままにその辺の木を3本へし折ったところで気づいた。
[戦闘の際、俺の体を操ってくれる]
ということは、戦闘終わったから帰っただけなのでは...と。
完全な早とちりだと気づいた俺は、赤くなった頬を隠すように熊の亡骸を背負い、家路を急いだ。
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俺が熊を倒したことに両親はとても驚いた。というのも、この熊は最近村の周りで頻繁に人を襲っており、村の人々は対処に苦慮していたのだそうだ。
そんな経緯もあり、村の人たちは俺に対する態度を謝罪したうえで、感謝の印として討伐者として活動するための資金を援助してくれた。こちらこそ感謝しかない。
そして遂に両親に了承をもらえた俺は今日、討伐者として旅に出ることになる───
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そして出発の時。
「クロス。ここまでよく頑張った。父さんとの約束、覚えているか?」
「はい。前向きな心と人を助けたいという思い、常に胸に刻んでおきます!」
俺の言葉に微笑みながら、父さんは一振りの短剣を握らせた。
「これは父さんが討伐者だった頃に使っていたものだ。安物だから実戦には使えないと思うけれど、お守り代わりに持っていくといい。達者でな!」
俺は短剣を腰にさし、力強く頷く。
「クロス...母からは一つだけ。勇気と蛮勇は似て異なるものです。蛮勇を掲げて多くの討伐者が命を落としました。
クロス。あなたは勇気を掲げなさい。時には引くのも、また勇気です。」
「はい。母様。必ず生きて帰ってまいります。」
俺は母様の手をしっかり握り、約束した。
「父さん、母様。今日までありがとうございました。行ってまいります!」
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村の入り口へと歩いていくと、見覚えのある二人の子供がこちらに向かってくる。
「君たちはあの時の...?」
「はい!熊に襲われた私たちを助けてくれたと聞きました!本当にありがとうございました!」
そう言って深々と頭を下げるのは、あの時気絶していた少女。
「そうだぜ姉ちゃん!この兄ちゃんが俺らを助けるために熊に立ち向かったんだ!
本当にカッコよかったんだぜ!」
そう言って俺をキラキラした目で見つめてくるのは、必死で姉であろう少女を守ろうとしていた少年。
「本当に無事でよかったよ。でも今度からは村の外には大人と一緒に出るんだぞ?二人に何かあったら兄ちゃんも悲しいからな?」
そう言って頭を撫でてやるとくすぐったそうに笑いながら頷いてくれた。
その笑顔は本当に幸せそうで───
「あの...お兄さん?どうして泣いてるの...?」
ああ、わかったよ。父さんとの約束の意味が。
「心配しないでくれ。この涙は──」
人を助けるってことは本当に。本当に──
「嬉しいっていう気持ちだからッ...!」
お互いを幸せすることなんだ──
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