努力の結晶、才能の片鱗
再び意識を取り戻した俺は、先程熊の一撃で重傷を負った場所に立っていた。
目線の先には点々と続く血の跡。俺を切り裂いたときに付着した血がうまい具合に目印になってくれているようだ。
半ば死にかけで守った命なんだ。今度こそ確実に守りぬいてみせる!
決意を固めて走り出そうとしたのだが、何故か体が動かない。
というか今気付いたのだが、そもそも体の感覚が無いのだ。
目は見える。耳も聞こえる。思考回路も問題ない。しかしそれ以外は皆無だ。焦り始めた俺に、唐突に声が聞こえた。
「安心しろ相棒。相手は巨体ではあるがあくまで動物。闘争の神レチタがこの身一つで捻り潰してやろう!」
頼もしい!頼もしいんだけどさ...
その声は俺に瓜二つだった。
『お前俺の体乗っ取りやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
────────────────────
「ハハハ!すまないな相棒!私の力を与える方法について説明してなかったよ!ハハハ!」
血痕を辿り、熊を追いかけ疾走する俺...
の体を乗っ取っているレチタは、何故か上機嫌に笑っている。
こうして移動している間に問いただしたところ、俺に力を与える方法、それは
[戦闘の際、俺の体を操ってくれる]
というものだった。
レチタが言っていた体を預けろ的な発言はこのことだったらしい。
俺には圧倒的に戦闘センスが欠けている。それを補うために、レチタのセンスと取り替えるといった形だ。
しかし俺の中には引っかかるものがある。
『なあレチタ。これ俺必要ある?』
体の主導権をレチタに握られている今、俺は見ているくらいしかやることがないのだ。
なんだか自分の体なんだが、人任せにしているみたいで申し訳なさがある...
「フッ、なにをバカなことを言っているんだ相棒!君は自分がどれだけ凄いことをしているか理解していないみたいだから、教えてやろう!
まず一つ。神は人間を超越した身体能力を持っている。それ故にこうして乗っ取りを行うときには力を制限しているんだ。本気を出すと依代が壊れてしまうからね。並の人間なら本来の力の半分も出すことはできないのだが、君は肉体の耐久力が人間卒業しかけているから7割から8割、自壊覚悟なら9割まで出せる!君の努力の賜物だ。誇りたまえ!
そしてもう一つ。それはこの私に認められたということさぁぁぁぁ!」
俺の体でいちいちカッコつけた言動をされると羞恥がヤバいからやめてほしいのだが、まあ存在価値はあるようなので一安心だ。
「まあ今後君にも自ずと戦闘の手助けをしてもらうことになるんだ。だからそれまでは私の華麗なる戦いを目に焼き付けておくだけでいいさ!」
『...わかった。適材適所ってことだな。じゃあ早速お前の華麗なる戦いっていうのを見学させてもらうぞ!』
「フッ、愚問だな!視覚は共有しているのだから、目を回すんじゃないぞ!」
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