邂逅
「...ハッ!?」
意識が覚醒する。
目の前に広がるのは白で統一された美しい部屋。そびえ立つと表現できるほどに長い階段の頂点には、荘厳な玉座が屹立していた。
幼い頃、母様が読んでくれた絵本に描かれていた王城のような美しさだ。
...どうしよう。やはり俺は死んでしまって天に召されたとかなのだろうか。
嫌な予感しかしなくてキョロキョロとあたりを見回していると、唐突に朗らかな声がこだました。
「やあやあ!クロス=ライオットよ!私が見込んだ人間に無礼をはたらきたくなかったのでね。こちらに招かせてもらったよ。」
先程誰もいなかったはずの玉座に続く階段を、一人の男が降りてきて俺の正面に立った。
くすんだ黒髪の俺とは真逆の滑らかな金髪を腰まで伸ばし、王族のような気風をまとっている。180近くある俺の身長より少し高く、年齢も20歳近くに見えるほど若い。
「あなたは誰ですか?そしてここはどこなのですか?」
よくわからないが、とても嬉しそうな表情で微笑んでいるその男に尋ねる。
すると男は唐突に膝をつく。
「君のファンになったんだ!君の力にならせてくれないか!?」
そして先程の風格はどうしたと言わんばかりの土下座を敢行した...
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「ン゛ン゛ッ。取り乱してすまない。君のような人間に会ったのは久しぶりだったものでな。ではまず自己紹介させてもらおう。」
そう言うと男は長い金髪を派手になびかせ、不敵な笑みを浮かべる。
「私は闘争を司る神レチタ!神々の中で最も戦いを知り、最も美しいと自負している!さあ相棒よ!神である私自身が魔王を倒す手助けをしてやろう!」
...闘争を司る神とか初耳だよとかその評価自称なのかよとかもう俺は相棒扱いなのかよとかツッコミどころしかないんだが。
状況を飲み込めず怪訝な顔をしている俺の気持ちを察したのか、つらつらと話し始めた。
「そうだった。君の質問に答えなくてはいけないな。では、順を追って話すとしよう。」
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とりあえず話を聞いてわかったのは、この神は恥ずかしいくらいのナルシストだということだ。
隙があれば自分の素晴らしさ、俺を見つけ出したことの凄さを語ってくるので、全容をつかむまでにかなり時間を費やした気がする...
まとめると、神は俺のことを、圧倒的に足りない才能を努力で補おうとし、命を張って自分より強い相手に立ち向かった崇高な精神の持ち主と認め、興味をもったそうだ。だから死にかけの俺を自らの空間に引き込んで助けてくれたらしい。
その上、俺の魔王討伐の手助けをすると申し出てくれている。
認めてくれたことも、命を助けてくれたことにも感謝しているのだが、気に入ったからといっても代償や見返りを求めずに俺に協力しようとする狙いがわからない。
「あの神様」
「おい相棒ぅ!私のことはレチタと呼んで、友人のような距離感で接してくれっていっただろう?」
「...じゃあレチタ。どうして俺にそこまで良くしてくれる?神であるお前がちっぽけな一人の人間に無条件で力を与えてくれるなんて、何が裏があるんじゃないかって疑っちゃうんだが。」
俺がそう言うとレチタは苦笑する。
「相棒は堅物なんだなぁ...まあいい。神っていうのは私も含めて気まぐれなものなんだ。だから私が君に力を与えるのだって、私の気まぐれ、暇潰しみたいなものさ。だから君は大船に乗った気持ちで私に体を預ければいいのさ!」
そう得意げに言っ...
え、体を預けるって何?どういうこと?
そういえばどうやって力を与えてもらえるのか聞いてなかった。それに関係してるのか?
「待て。体を預けるってどういう───」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
そんな俺の言葉を遮るように警報が鳴る。
「時間が来てしまったか...なあ相棒。今、君が命を助けた少年少女が再び襲われそうになっている。無理もない。少女を背負った少年が、熊から逃げ切るなど不可能だからな。ここで決断してくれ。私の力を使うか、それとも───」
「それを先に言いやがれ!もう細かいこと考えるのはやめだ!さっさと俺に力を与えてくれ!」
そんな俺の言葉にレチタは獰猛な笑みを浮かべ、高らかに叫ぶ。
「それでこそ私が見込んだ男だ!さあ行こう戦場へ!君が鍛えた人間離れした体。そして闘争の神たる我が才能が合わされば、後に残るは敵の亡骸のみだ!」
そうして手を振るレチタを見ながら、俺の意識は遠のいていった。
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