第一章 旅立ち編

決心

 俺、クロス=ライオットはアリア王国の辺境の農村に生まれた。身分的には平民で、決して裕福とは言えない家庭環境ではあったが、両親はただ一人の子供であった俺を大層可愛がってくれた。

 暖かい両親と豊かな緑に囲まれて育った俺だったが、母様がよく聞かせてくれておとぎ話や歴史書から、この世界の現状を知ることができた。


 元々、この世界は一つの大きな大陸に複数の国家が点在していた。しかし200年ほど前、突如現れた魔物によって人類はなす術もなく蹂躙されていった。多くの国々は瞬く間に滅び、ついに大陸中心に存在する当時最大の国家であるここ、アリア王国を残すのみとなった。

 そんな中、残された人類に魔王は言った。


 「これはゲームだ。我を存分に楽しませるがいい!」


 魔王はアリア王国を巨大な壁で囲み、その外側の大陸全土を魔族の支配地とした。自らを超える強者を求める魔王は、支配地に四つの「逆境の魔窟」とよばれるダンジョンを配置。強力な配下が控えるそれらが全て攻略されたのなら、魔王への挑戦権を与えると宣言した。同時に、自らを討ち滅ぼすことができたのなら、世界を元通りに戻すとも。

 しかしこの国には、伝説の剣に選ばれた勇者も、神に祝福された聖女も存在しない。実力をもってして戦わなくてはならないのだ。

 勇敢かつ無謀な多くの人間が次々に命を落としていく。それでも一つとしてダンジョンの攻略は叶わなかった。

 この現実にアリア王国は向き合うことを決意。「討伐者」という身分を設け、彼らへの支援を行っている。いつか実力をもってして魔王を捻じ伏せる人間が現れることを信じて...


 ...うん。人類劣勢なのでは?幼心ながらにひしひしと感じる。

 でも同時に、今自分は平和に暮らせているわけであって、魔王討伐する必要ないんじゃ...?とも思った。実際アリア王国も討伐者を規定する前は現実から目を背け、仮初めの平和を享受しようとしていたようだが、どうも魔王は国の中枢機関を監視しているらしく、もし魔王討伐を諦めるようなら王国を即滅ぼすとご丁寧に通告もとい脅しをかけてきたという。


 そうまでして自らを倒す存在を求めている魔王の感性は全く理解できないのだが、それは別として俺は元討伐者であった父さんに憧れて、討伐者を目指したいと思った。そのためにも、今から鍛錬を積んで、強くならなくてはと思い立った。

 俺が5歳のときであった。

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