ep.21「案外お似合いだったりするのかな」

「宮内くん」


「あ、宮地さん~ごめんこれだよね」


クラスの学級委員、宮内くんから、任せていた書類を受け取る


「ありがとうございます。」


「どうする?食品衛生の許可とか、検便の提出のスケジュールとかいろいろやることあるけど、放課後空いてる?ちょっと相談しよ」


「はい、そうしましょう」



もうすぐ文化祭。


私たちのクラスは模擬店をするので、そのための準備をしている。



この学校の文化祭は、学級委員が文化祭実行委員の役割も兼ねるから、この時期は少し忙しい。


「あずちん大変だね~勉強もおろそかにせず、委員会の仕事も完ぺきにこなせちゃうんだから、さすがだよ」


「いえ、そんなことは、みかちゃんこそ、部活、いつもご苦労様です。」


「うん、好きでやってるからねん」


まぶしいパワーに照らされる。





放課後、部活がオフのみかさんが、物理準備室に向かうのを横目に、宮内くんの元へ駆け寄った。


「んじゃ、やろっか」


「はい」




教室内は私と宮内くんしかいなくなり、二人で真剣に打ち合わせをしていた。


「こんなもんかなぁ」


「なんとか行きそうで安心ですね」


「宮地さんって意外と話しやすいよね」


「え?」


「今まで、ちゃんと喋ったことないけど、仕事できるし、友達思いな感じするし、あと勉強もできるし?」


「そんな褒めても、何も出ませんよ?」


「ははっ、そういうところも、ギャップだなぁ」


なにかを企んでいるように微笑む宮内くん。


「知ってる?僕たち、みやみやコンビって言われてるらしいよ?」


私の髪の毛に触れる宮内くん。


「聞いたことはありますね」


「案外お似合いだったりするのかな」


私の目をしっかり見つめて、逃さない。


「というと?」


「ん~、いい子だよねってこと、ちょっと気になっちゃうかも?宮地さんのこと」


「なるほど」


思った通りの人かもしれません、彼は。



「そうやって何人も落としてきたんですか?」


「ん?何の話?」


「私には効かないので、本音で話していいですよ?」


「なーに?」


「以前から明るすぎるオーラ、男女ともに友人も多くて人気で、王子と呼ばれているのは知っていましたが、私はその感じ、胡散臭いなとずっと思ってました。きっと軽いんだろうなって」


「はははっ、もしかして嫌い?俺のこと」


「いえ、人に表と裏があるのは当然です」


「なんだぁ気付いてたんだ」


かまをかけたつもりだったけど、正解してしまった。


「そんなに頑張りすぎなくてもいいのでは、と思っているだけです。」


「いいポジションにいることの方が得だと思ってんだよ。

そう思って王子様とか学級委員とか割と気張ってやってたんだけどねぇ、最近はプライドの方がでかいかも」


「そんなに頑張らなくても、あなたは顔も頭もいいし、それだけでモテると思いますよ」


「それ、褒めてないよね」


「いやまぁ」


「でもそんな風に軽いとか、完璧王子キャラとか、遊べるとかで近付いてくる女も男も多かったから、なんか意外だわ」


「意外?」


「気付かれたのも、本当の俺に話しかけてくるやつも、普通気付いたら離れていくよ、なんもない人間だから俺」


「例えばなんですが」


「ん?」


「私の友達、みかさん、わかりますか?」


「うん、灰原ちゃん?仲いいよね?」


「私は彼女のことを、みかちゃんと呼んでいます。それは、はじめましての時、なかなか敬語が抜けない私に、せめて名前だけでもという約束をしたからです」


「あーそうなんだ?」


「でも、心の中ではみかさんと呼ぶし、他人には、たまにみかさんと言ってしまいます。」


「ふーん」


「私の一人称は私ですが、家族の前ではあずさです。父親に対しても敬語ですが、独り言の口は荒かったりします。先生への態度も先生によって変えるし、人によってキャラは変えまくりです。」


「んー何が言いたいの?」


「つまり、どれも私です。取り繕ったり、見られ方を考えて行動を変えるのが人間です。宮内くんみたいなのは当たり前なんです。裏を知ったところで、それも宮内くんなので、関わるのをやめるとか、引くとかはありません。」


「なるほどね」


「ただ、その裏が垣間見える瞬間というか、オーラがたまにあるので、無理に頑張っているんだったら、という心配はしていました」


「俺たちそんなに話したことないのに、そんなこと考えてたの?」


「人間観察はする方なのかもしれませんね」


「ははっ、宮地さん、おもしろいよ、そんなに喋る人だと思ってなかったし、励ましっぽいことしてくれて、うれしいわ」


「いえ、本音を言っただけというのと、口説かれるのが煩わしいと思っただけです。」


「その急に毒舌なところも、めっちゃ意外、それも全部、宮地あずさってことね」


「そうですね」


「ありがと、んじゃ帰ろうか」


「はい」



次の日も彼は王子様のような笑顔で、クラスメイトと過ごしていた。


でもその笑顔はいつもの王子様より、ちょっと気の抜けた、やわらかくて健気な王子様だった。

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