ep.20「無理、我慢したくない」

「なにケーキがいいですか?おごります」


「まじ?やった!

じゃあね~これ、タルトがいい」


「わかりました」



慌てて駆け寄ったケーキ屋さんで、ケーキを買う。



「どうぞ」


「やった、結構甘いもの好きだからうれしい」


「よかったです。プレゼントっぽいものを渡せて」


「んじゃ、これ一人で食べるのきついからさ、先輩も食べようよ」


「はい、いいんですか?」


「じゃ、俺んち行こ」


「え?」


はめられた・・・。


「言ったでしょ、手出さないから安心してって」


それとこれとは話が・・・


「まぁ、ちなみに親はいないけどね」


「え・・・」






「お、邪魔します・・・」


「どうぞ~」


いきなりお邪魔してよかったのでしょうか。それにしても両親がいないってどういう状況でしょう。一応一人暮らしではないのか?



「紅茶とコーヒーだったらどっちがいい?」


「では・・紅茶で」


「はいよ~」


彼の部屋にふたりきり、妙に緊張してしまっている。



「というか、せめてそれくらいは私にやらせてください、ケーキ、切り分けますよ」


「いいのに~」


「キッチン、失礼しますね」


「ありがとう先輩」


さっき買ってきたアーモンドタルトを切り分けようとする。


何等分にすればいいんだ?


誕生日ケーキなのに彩りの少ないケーキでよかったのかな?


メッセージプレートもないし・・・





「あ、ろうそく買うのを忘れてしまいました・・ごめんなさ―――――」


それはあっという間に。


自分のうしろに、夏見君の熱を感じた。


いつの間に近付かれていた。まるで私を包み込むように台所に両手をつく夏見君。


全身が触れるか触れないかの距離から、彼は離れない。


私も同じように、身動きが取れなかった。


「あの・・やりづらいので・・・」


「ごめん、ちょっとだけこうしててもいい?」


そういうと彼は、額を私の右肩にそっと落とした。


「だ、だめです・・・」


「無理、我慢したくない」


「してください・・」


「ごめん」


「て、手は出さないって、言ったじゃないですか」


「手、は出してないじゃん」


「ずるいです・・・」


顔が熱くなる。


「そ、そろそろ・・・・」


「ん、ありがと、充電できたわ」


すっと私のそばから離れる。


「はぁ」



気を紛らわそうと、急いで切り分けたケーキをテーブルまで運ぶ。


なんなんだこの人。


これ以上振り回さないでほしい。


私で遊ばないでほしい。




そのあとはテレビを見ながらケーキをいただいて、いつもと何ら変わらない会話をしてくつろいだ。




帰りは夏見くんが家まで送ってくれた。


「先輩、今日はありがとね、時間作ってくれて、ケーキまで」


「いえいえ、遅くなってしまってごめんなさい」


「楽しかった?」


顔を覗き込んでくる。


小僧め、そんなにドキドキさせないでほしい。


「まぁ、楽しかったです。そこそこ」


「ははっよかった~んじゃ、また、デートしようね~おやすみ」


「おやすみなさい」


で、ででデートだったのか、結局・・・



その日は

あんまり眠れなかった、


気付きたくない気持ちに向き合いすぎてしまったんだろう。



恋をするのなんて、初めてじゃないのに。



「初恋かよ・・・ってくらい」


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