2学期

ep.18「じゃあ先輩のことちょうだい」

新学期がはじまりました。



「今日も今日とて、雑用を学級委員に押し付けないでください、藤宮先生」


「最近は脳死でお前に頼んでるな・・すまない」


「クラスの学級委員は私だけじゃないんですよ」


「あぁ、もう一人いたなぁ・・誰だっけ」


「宮内くんです。」


「あぁそれだ!みやみやコンビって言われてたな」


「先生も入りますか?」


「いや、一緒にするな」


「解せないです」





「ところで、31日はどうだった?どっか行ったの?」


「え、31日・・・?おうちにいましたけど・・なんでですか?」


「え、あれ・・まじか・・」


「え、なんですか?」


「いや、もしかして知らない?やっぱりなんでもないかも」


「やっぱりなんでもないがなんでもなかったケースは見たことありませんが」


「いやぁ・・」


「なんですか?」


「なんていうか・・そうだな・・・

31日、遥の誕生日だったんだよ」


「え?」


誕生日・・?


「当日藤宮家で焼肉だったから誘ったんだけど、用事あるって言ってたから、宮地と会う約束でもしてんのかと、てっきり・・・」


「えぇ・・あぁ・・そうでしたか」


「いや、まぁ、知らなかったんならしょうがないって!祝われなかったくらいで落ち込むやつじゃないっしょ?」


「・・・」


31日は・・勉強会の4日後・・なんで知らなかったんでしょう・・


知らなったことも、お祝いできなかったことも、申し訳なくてショックだ。


「お、お祝い・・今からでもいいしょうか・・」


「お、おう!それがいいと思うぞ!たぶん遥も宮地におめでとう言われるだけでうれしいと思う」




帰り道。


なんて新学期のはじまりだ・・。



「プレゼント・・とか・・」


なにがいいんだろう。






一日中考えても思いつかずに、翌日を迎えた。




藤宮先生が、夏見くんが今日も屋上に向かったことを教えてくれた。


ガチャ。


久しぶりに踏み入れる屋上になつかしさを覚えた。



「せ、先輩!どしたの」


「か、風にあたりたくて・・」


「会いに来てくれたの?」


「風に当たりたくて」


「あ、はいはい~」


いつもの笑顔を見せる夏見くん。


「な、夏見君」


「ん?」


「夏見君は、なにか・・好きなものとかありますか?」


「え?宮地先輩」


「それ以外で」


「え~?すぐ思いつかないなぁ」


「じゃぁ、今欲しいものとか・・・」


「だからせんぱ――――」


「それ以外で」


「ははっ先輩さては、誰かに俺の誕生日聞いた?」


この人の特性のひとつに、敏感で、勘がいいという点を追加したい。


「い、いえ!そんなでは・・

いや、まぁじつを言うと、そうです」


「はるとかぁ~」


「知らなくてすみませんでした・・。遅れてでも、いつもお世話になっているので、なにかお祝いできないかなと思ったのですが、なにも思いつかなくて・・」


「そんな考えてくれたんだ。それだけでだいぶ嬉しいわ」


「そういうと思いましたが・・せめてなにか・・ごはんとかでも・・」


「んー。じゃあ先輩のことちょうだいよ」


「だ、だからそういうの以外で!」


「俺と一緒に過ごす時間ってのはどう?」


「時間・・・いつも割と一緒にいるじゃないですか?というかついてくるじゃないですか」


「ふたりきりで、だよ。1日休みの日、俺にちょうだい。手出したりしないから、安心してよ」


「そ、そんなのでよければ・・」


「んじゃ決まりね!」


これは、夏の終わりの、熱い日になるだろうか。



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