ep.15「恋した人しか知らないですね、きっと」
「本当はね、死にたかったんだよね」
「はい」
「あの時電話してた友達は、佐々木っていうんだけど、幼馴染」
「はい」
「お互いが病んだ時に、よく話すんの」
「はい」
「病むっていうのはさ、いわゆる躁うつ病っていう感じのやつで」
「はい」
「先輩に会った日はうつ期の絶頂だったんだよね」
「はい」
「本気で死にたいって思ってたんだ、今だって、早く死ねないかななんて思ってる」
「そうなんですか」
「でも、死ぬの痛いじゃん?怖いじゃん?」
「はい、私も痛いのは怖いです」
「だから、消えてなくなりたい」
「なるほど」
「だから、童貞捨ててから死にたいってのは友達と話した冗談」
「ということは、童貞は本当ですか?」
「ノーコメント」
「そこは教えていただけないのですか」
「でさ、あの日見たんだよ、先輩の走ってるところ。
綺麗でさ、見惚れてて、ずっとこのまま見てたいって思ったんだよね。
生のエネルギーを感じたっていうか」
心が揺れる。
自分から、生を感じ取れる人が現れるなんて。
「それは・・恋とは違う感情なのではないでしょうか?」
「ん~、じゃあ恋って何?」
「えっ」
「誰か知ってるの?」
「恋・・した人しか知らないですね、きっと」
藤宮先生に聞いた時も、難しいって言ってたな。
「やってみないとわからないものをさ、知るのって、死ぬのと同じくらい怖いんだわ」
「・・・? 難しいです」
「恋したら、自分の知らない気持ちに侵されて、もっとつらいんじゃないかなって」
「では、死ぬのと、恋するのを比べたら、恋をした方がまし、という考えはどうですか?」
私なりのはげましだったのでしょうか。
「でしょ、生きる人は、恋した方がいいって言うでしょ。だから、恋にさせてほしいんだ、俺にとっての好きは、俺にない生きるパワーを持ってる人への尊敬ってイメージ、で、お願いします」
「なるほど、私が納得するように誘導しました?」
「俺、そんな器用じゃないよ」
「それは知っていました」
「どう?」
「なにがですか?」
「重くない?俺の話聞いて、ちょっと引いた?嫌いになった?かなーって」
勇気をもって話してくれたんだな。
嫌われるかもという不安を抱いてもなお、真実を伝えるほどの、恋に落ちる覚悟、ですか。
「ふふっ、お話頂いて、ありがとうございます。でも・・・」
「でも?」
「このご時世、死にたい方なんて死ぬほどいらっしゃると思うんです。私は力及ばず、そういう方々を救うなど大それたことは出来ないし、ましてや、夏見君のいう病みの部分を励ますことだってできません」
「そんなことないけど・・」
「いえ、そんな簡単じゃないです、消えたい気持ちを、消すのは」
「・・・」
「それと、本気で死ぬのを覚悟している時でも、大切なお友達に冗談を言うという人間性は嫌いじゃありません。きっとあなたたちは二人で、必死に生きて・・・いや、死ぬのを踏みとどまっていたのでしょうね」
「・・・」
「ですから、何が言いたいのかというと・・」
「うん」
私の本当の気持ちは、自分だって気付いていないのに。
「消えたいと思うのは勝手ですが、もう少しあとにしませんか?」
「え?」
「私はまだまだ、お友達と遊びたいなと思っています。みかちゃんだって藤宮先生だって、佐々木さんだってきっと。
そんな理由じゃ、駄目でしょうか?」
せめて、あなたが私を落とすまで。
「ははっ、先輩はやっぱり、そういうところがあるね」
火花が散っていった。
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