ep.10「俺に会えなくなるの、寂しい?」

「あずちん!!全教科赤点回避!!ありがとう~」


「それはなによりでした。よかったですね。」


「正直物理は補習のために、わざと手を抜くか迷ったよね!」


「みかちゃん・・・」



期末試験が終わった。

来週からは夏休みだ。




「全部80点以上?!さすが先輩~」


「夏見くんこそ、なんだかんだ高得点じゃないですか」


「先輩のおかげ」


いつもの物理準備室。


「夏見くんて策士みたいなところあるよね、うまいっていうかさ~」


「灰原先輩は逆にわかりやすく純粋ですよねっ」


「なにー!」


「夏見くんも、汚れていなくて、純粋ですよ、ね?」


「宮地先輩、やっぱり馬鹿にしてんな?」




今日の放課後が終われば、夏休み。


「宮地、なんか今日は体調悪い?」


「え、なんでですか?先生」


「暗い顔してるぞ、さっきから」


夏休み。うれしいはずなのに、さっきから気持ちが晴れてない


「えー!あずちん大丈夫?夏バテ?」


「いえ、大丈夫ですよ、気にしないでください」



チャイムが鳴る。


「本当に?帰ったらちゃんと休むんだよ?

私部活だから、行ってくるね?ごめん!」


「はい、頑張ってきてくださいね」


走って部活に向かうみかさんを見送っていると、視線に気づいた。


「なんですか?」


「ううん。先輩、久しぶりに屋上行かない?風に当たったら少しはすっきりするかもよ?

っていうのは、口実で、ちょっと俺の人生相談聞いてよ」


その誘いにどうしてこの日は乗ってしまったのでしょう。



「・・・しょうがないですね、お付き合いします」





「だから、お前らの惚気見てられない、早くいけよ」


「んじゃ藤宮はるとせんせ、夏休みはつらいと思うけど、頑張れ~」


みかさんと会えなくて、ということか。


「失礼しました。」







久しぶりの屋上は、気持ちよかった。


やっぱり、この風と、この景色、この心地よさを私は知ってしまったんだ。


「先輩はさ、さっきからなに考えてんの?」


「あなたの人生相談じゃないんですか?」


「ずーっと暗い顔してるけど、別に体調不良じゃないよね?」


「別に、夏休みは課題が多くていやだな、とか、そんなところです」


「勘違いじゃなかったらいいんだけどさ、」


彼はいつものように、私にゆっくり、一歩ずつ近付いてくる。


「というかこれは俺の願望なんだけどさ、」


いつもは危険を察知して、すぐ避けられるのに、この時はできなかった。


彼が私の耳元で言う。


「夏休み、俺に会えなくなるの、寂しい?」


「なっ」


顔が熱くなるのが分かった。


今日ずっと、心に抱えていたもの、でも必死に気付かないようにしてたもの、

モヤモヤしていたものを、こんな簡単に、真ん中を貫いてこないでほしい。


こっちは、耐えられない。


「先輩、顔赤いよ」


顔を覗き込んでくる。


「う、うるさい、です。」


彼は笑った、意地悪に。


「べつに、違います。あなたに会わないなんて、有意義な夏休みを過ごせそうで、嬉々としています。」


「そっかぁ、それはちょっと傷つくなぁ、俺は毎日でも会いたいのに」


この人みたいにまっすぐになったら、いつかその線は折れてしまうに決まってる。



「よかったら、夏休み、遊んでくれない?」


応えられないはずなのに。


「・・・」


「じゃあさ、友達からでいいから、

俺のこと、友達としてみてよ、そんなに警戒しないで」


そう言って、彼はスマホを取り出し、LINEのQRコードを差し出してきた。


「お、お友達でしたら・・」


「やったね」


いつもの笑顔だ。



その日、LINEの友だちに「夏見 遥」が追加された。


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