ep.7「その時間に一緒にいられて幸せだわ」
「帰り?宮地先輩」
「はあ」
大きくため息をつく。
「なんでいるんですか」
「帰り道だから。知らなった?同じ方向って」
「知りたくありませんでした」
「またまた、強がっちゃって」
「今日は屋上行かないんですか?」
「先輩と一緒に帰りたくて」
「あの、本気なんですか?」
「え、まだ疑ってる?」
「信じてません」
「これから嫌というほど愛を伝えてあげるから安心しなよ」
「嫌です」
「嫌っていうほどな、ははっ」
「放課後を一緒に過ごすご友人いないんですか?」
「は?俺これでもモテるからね?それでも孤独を貫いてるの、わかる?」
「童貞でも、モテはするんですね」
帰り道、家を知られたくなくて、遠回りをすることにした。
この道はよく考えごとをするときのルートだ。
土手沿いを歩く。
「え、こっちなの先輩?俺、よくこの河川敷で遊ぶよ」
「遊ぶって何ですか」
「んーなんだろ」
「先輩ってさ、体動かすのとか得意でしょ」
「なんでですか」
「体育の時、走ってる感じとか見て思った」
「変態」
「すぐそれ言う」
「本当のことです」
「そのさ、敬語の癖って、もうずっとそうなの?」
「はい、母親が父親に敬語だったので、それが移りました」
「ほえー、敬語なのにあんまり遠い感じがしなくて、心地いいんだよね」
「そうですか、夏見くんも一度私に敬語を使ってみてください」
「んーやってみよっか」
「先輩、もう家帰るだけですか?」
「なるほど、くすぐったいですね」
「よかったら、このあと一緒に遊びませんか?」
「ナンパですか」
「答えは?」
「行きません」
「いいじゃん付き合ってよ」
「敬語忘れてますよ」
「ははっ俺には無理だったわ」
全部、意味のない会話なのかもしれないけど、久しぶりに気を使わない会話をした気がする。
脈絡のない話をする人だと思ってたけど、意外とこのテンポについていっている自分がいるな。
心地いい、と思ってしまった。
「あの」
「ん?」
「少しだけでいいなら、お付き合いします」
「お、ほんとに?
やった、放課後デートだ」
「映画ですか」
「嫌い?」
「いや、好きな方です」
「よかった、これ見たいんだよね、いける?」
切ないラブストーリー系の映画。
好きな脚本家の作品だった。
「はい、好きです」
「ふふっよかった」
いわゆる、放課後映画デートの終わりは21時半ごろだった。
「夜遅い時間まで連れまわしてごめんね」
「凛音はなぜあそこで、告白をなかったことにしたのでしょう」
「え?あ、さっきのね」
映画を見終わったあとは、自分なりに考察をするのが好き。
好きな時間。
「気を使ったんじゃないの?恋をしちゃいけない立場の人は難しいよね」
「好きな気持ちってひた隠しにすればするほど、溢れてくるものでしょう?」
「その溢れるものが本人に伝わることで、相手の立場や私生活を壊すことになったら、好きな人に害を与えた存在になっちゃうでしょ」
「そうです、それが聞きたかったです」
「え?」
「人間の恋は難しいですね、簡単にこじらせる」
「んー、考えるのが好きなの?」
「作品ですか?はい」
「いや、人のこと、よく観察したりしてるんだろうなって」
この人は私の話を聞いていたのだろうか。
「いえ、ただ、映画の感想を言い合う時間が好きなんです」
「うん、その時間に一緒にいられて幸せだわ俺」
「よ、よかったですね」
危ない。
この人は私に好意を寄せているんだった。沼に落ちる前に、気を張らないと。
「送ってくよ」
夏の夜、少し、顔が熱い帰り道だった。
結局、家を知られてしまった。遠回りをしようとしていたことも。
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