9 ド派手にデコられた服
陽の光が転々と降り注ぐ時間帯。
その光加減から見て、恐らく二人は一から二時間の間魚の捕獲を行っていた。
リズベリーは四匹ほど捕獲。クインエスもコツを覚えるのが早く、二匹捕獲していた。
もう充分と捕れたので、切り上げて二人は元の場所へと戻る。
戻ってから、次にクインエスはそこらの燃料になりそうなものを搔き集めた。そして、それらで小さな焚き火を起こす。それから、冷えた体を温めつつ、魚を枝に刺して焼き炙り始めた。
「魚って焼いて食べるんだね。どんな味になるんだろう」
鳥でもありゃせん限り魚を生でなんて食べないだろ。リズベリーの言葉がやや気にかかるが、クインエスはあえて苦言を呈さなかった。
焼きあがってくると、食欲を注ぐ香ばしい匂いが辺りに立ち込める。
「ほら」
先から唾液を垂らしそうな気の抜けた顔をしていたリズベリーに一本渡してあげた。
「わーい! ――あつっ!」
「そりゃそうだ。息でも吹きかけて冷まして食べないと」
このように誰かと食事を共にするのは久方ぶりで、それは無意識に亡き日を思い浮かばせる。
人当たりが良く、ハキハキと明るい。見せる笑顔は注ぐ太陽を思わせ、きっと奪われた星にも届きそう。
遥かに消えて空に香る潮風よりも儚く薄らいだ友。彼女との日々が巡り、途端どうしようもない感覚に苛まれて、瞬間呼吸の仕方を忘れてしまう。
「? どうしたの、ユー。食べる手止まっているよ?」
亡き友と同じ名前の彼女は確かに似ている所はある。しかし、亡き友と彼女はやはり別人。
だのに、感じてしまっていた。亡き友と彼女をクインエスは重ねてしまっていた。
いつまでも星に手を伸ばしては、思い出に飛ぶための翼ばかりを手入れしていたくせに、いざその片割れのようなものに触れると、また壊れることを恐れて目を背ける。そんな自分が滑稽であった。
「……どうやら、あまり食欲がないらしいな」
そう言ってクインエスは何から逃れているのか分からないままにさっさと立ち上がった。
「悪いが、後片付けは頼む。面倒なら放置していてくれても構わない」
そしてクインエスは替えの服へと着替え始めた。
「すっごい派手な服だね」
リズベリーが評する通り、着替え終えたクインエスの着けた服は、これでもかと装飾の刺繍やら何やらが施された物だった。
先ほどまで着けていた物は黒一色であったので、それこそ今のクインエスの雰囲気はガラッと変わる。
別段、このような服装は彼女の趣味ではない。むしろ先ほどの格好の方がクインエスのそれに近かった。
この派手な代物は、亡き友リズベリーが曰く『デコる』を覚えたとかなんだとか言って勝手に改造されたのである。
素人にしては中々に完成度は高かったとは認めたが、やはり人前で着るにはどうにも派手過ぎる。
それにこのような状況下だ。おおよそ人々の精神状態は擦り切っているので、変に悪目立ちするのもあまりよろしくはない。
などなど着ない言い訳を並べた当時は亡き友リズベリーにぶーぶーといちゃもんを付けられたものだった。
そして悲劇は突然に訪れた。この後すぐに亡き友は調査任務の際に殉職した。
結局、彼女が生きている間にこの服を着ることはなかった。
それからだろう。人目を気にせずにこの派手な服を着るようになったのは。それでも流石に毎日は着けてはいないが。
「悪目立ちするから頻繁には着けないけれど、今はこれしかないから」
「そう? リズは結構その恰好イケていると思うけど」
驚いた。この格好を『イケている』と評する者が亡き友以外に現れるとは。
「ありがとう」
久しぶりに意識しないで笑顔を浮かべた気がする。
その笑みはどちらに対してだったのか。降り注ぐ太陽の光が邪魔をして、もう分からなかった。
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