2 エイルマットとの再会

 早速の悲報。港町マナカッテから都市へと続くバスは三日後の早朝とのことらしい。

 住宅地の形成もまばらで、雑に整備された道がほとんど。あとはすぐ遠くに海原が広がっている。そんな町に二人が着いた頃には既に夕焼けの衣が纏われつつあった。


「再び提案だ、ラメリナ。三日後の早朝まで俺らは二手に分かれて行動しよう。掴めるとは思えないが、一応『真実の花』の情報収集。それから『クエスト』を適当にこなして今後の旅の資金を稼ぐこととしよう」

 またもラメリナは迷わずに賛同した。



 ということで、今ドルラーズは一人住宅地を散策中。

 もうすっかり夜もふけている。疎らな人の賑わいを聞き流しながら、ドルラーズはまずは今晩宿泊する所を探していた。


「あっれー? ドルドーじゃん!」

 

 ふいに背中からかけられた声。そして次の瞬間にはその気配が一気に近づいてきた。

 声がかかった時はそれはまだ後方十数メートルといったところであった。――だのに、瞬く間に気配が背中に付いて、それと共に人の匂いの感じが彼の肌を柔く撫でている。

 これは明らかなる瞬間移動による急接近。何か特別な力が行使されたのは確実であった。

 敵か? しかしこのような田舎町でこのように背後を取られ、このようにして首を狙われる理由は特にない。

 しかしよもやのこともある。ドルラーズは迎え撃つために素早く振り向く。背中で感じた通りにもう既にその存在はそこにいた。


「ど、どうしたの? すごい顔をして」

「……エイルマットか」

 視認して彼は緊張を解いた。そして険しくなっていた表情を柔らかくさせる。

『エイルマット・サニハンラ』。つい先日『宝石竜ほうせきりゅうティンク・テオ・テパーダ』と共に立ち向かった腐れ縁の女旅人だ。

 薄く茶色がかった髪を短く纏めており、血色の良い肌とそこそこ整ったルックス。少々緑がかったワンピース調の服装に身を纏う彼女はなんてことのない、そこらにいるドルラーズと同い年くらいの普通の少女だ。


「何がそこらにいる普通の少女よ! かわいいかわいいエイラちゃんでしょ!」

「こんな近くでわめくな、唾が飛ぶ」

 普通というのは少々語弊がある。彼女はこの何でも便利になった時代では珍しく異能の才があるのだ。

 それはドルラーズそしてラメリナも同様なのだが、彼女は特に『特異能力』に分類される『次元術』の才に秀でている。先の瞬間移動も『次元術』の一系統、別次元内を繋げて任意の場所へと移動する『移動系次元術』によって成せたものだ。


「しかし久しいな、エイルマット。お前とは一期一会、もう会えないものだと思っていたのだが……」

「そのエイルマットって呼び方やめなさいよ。男みたいでヤだ」

 ところで。言いつつエイルマットはこちらを見定めるような様子をしながらふと尋ねてくる。


「ドルドー、あんた暇?」

「暇じゃない」

 じとりと感じるのは俗に言う嫌な予感。

 彼女とこうして会って話すのは二回目ではあるが、その語り様から何か面倒なことが降り注ぐであろうとドルラーズは察知していた。


「ラメリナがいないのが気になるけど……」

「あいつとはいま別行動中だ」

「ふーん。ま、なんでもいいわ。どーせまだ宿屋も見つけきれてないんでしょ? 私がチェックインした部屋の半分貸してあげるわ。そこでゆっくり話したいこともあるし」

「なんだ、欲求不満か? エイラ、悪いが俺は自分より背の低い女は対象外だ。最も百七十九とかいう微妙に平均以上で、しかし百八十にミリ届かないタッパだから、最近は高望みせず目線が並ぶくらいまでは許容範囲にしている」


 言い切ったと同時にドルラーズはエイルマットに叩かれた。


「殺すわよ! そうやって変に選り好みしていると、気づいたらいつまでも子供部屋でスレ荒らしながらチーズ牛丼ばっか食うはめになるわよ!」

「いったぁ……。じゃあなぜ俺を誘う? 同い年くらいの男女、溜まったもんを吐き出す以外の理由があるのか?」

「別に、ただの気遣いよ。言ってなかったけ? 私、気とお金しかつかえない女なのよ」

「……少々引っかかるが何も言うまい。まあ、宿に困ってたのは事実だ。甘えさせてもらおう」


 こうしてドルラーズは再会したエイルマットに先導されてついていくこととなった。

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