第4章 メンヘラ妹を浄化する。

妹デレデレ化チャレンジ。

 前回までのあらすじ。


 僕は、おっぱいを揉むための部活を承認してもらうべく、生徒会書記の才原春香さんの、彼氏のフリをすることになった。

 迎えた土曜日。才原さんとの偽デートも無事終わり、帰ろう……としたところ、才原さんに引き止められ、まさかのガチ告白をくらってしまったのだ。


 返事に困っていたら……。


 ……妹の弓音が現れた。

 

 果たして、僕の運命は、どうなってしまうのだろうか……!


 ◇ ◇ ◇


「うんこみたいなモノローグはやめてくれない?」

「おい。なんてことを言うんだ。我が妹よ」


 僕は今……弓音の部屋にて、椅子に拘束されている。

 弓音は、手にトンカチを握っている状態だ。

 一つでも発言を間違えたら――僕の頭蓋骨は割れるだろう。


「まず、アレだな。言い訳をさせてくれ」

「させない」

「頼むよ」

「させないし……。したところで、私は絶対に、兄貴の話を聞かないから」

「くっ……」


 落ち着け。僕……。

 まずは弓音が、どうして怒っているのかを探るんだ。

 

「前も言ったけれど……。弓音はさ、僕のこと嫌いなんだよな? だったらむしろ、他の女の子たちと過ごす時間が増えるのは、弓音にとってプラスなんじゃないか? その分……弓音にちょっかいかける回数も減るだろうし」

「ハサミもあるけど」

「……」


 会話する意思を持たない。

 まぁ、反抗期だから、仕方ないんですけど……。

 ……何か、引っ掛かる。


 弓音は昔、僕のことが好きだったはずなんだ。

 たかが反抗期を迎えたくらいで……こんなにも、性格が変わるものなのだろうか。

 

 ツンデレ……っていう感じでもないんだよな。

 シンプルに、僕を憎んでいる……というか……。

 

「そ、その……さ……。僕が中学三年生の時に、彼女を作って、まぁまぁな失恋をしたから……。……心配してくれてる、とか、そういう話ではないのかな」

「接着剤で、口を閉じようか?」

「文房具がやたら豊富だな……」

「ホッチキスもあるし、三角定規もある」

「……良いよ」

「え?」

「わかった。――好きにしてくれ」

「……は? 何言ってんの?」


 弓音が、若干動揺した様子で、僕を睨みつけてくる……。

 だがもう――これしか方法がない。


「弓音の考えていることは、わからないし……。僕の何が憎いのかも、正直察することができない。単に反抗期だからって言葉じゃ、片付けられない何かがあるような気もするけど……。その正体さえ掴めない。だから――」

「な、なに……」

「僕を――ボコボコにしてくれ」

「……え」


 最後の手段だ。


 弓音の抱えている悩みとか。

 僕に対する憎しみとか。

 これまでは……言葉で、ちょっとずつ発散してもらっていたけれど。


 多分……物理的に消化するのが、一番手っ取り早いだろう。


「大丈夫。お前の兄貴はドMだからな。……ほら。言ってただろ? 女を連れ込んだら骨を砕くってさ。僕は今回、弓音に断りもなく、また他の女の子とイチャついたわけだ。どんな理由があれ、僕も……。……その子に、ときめきを感じていたことは否定できない。だから――ボコボコにしてくれっ! 顔面がグチャグチャになるくらいな!」

「そ、そんな……」

「良いんだぞ! 足も折ってくれ! あ、でも、片方だけにしてくれるとありがたいな! 歩けないのはさすがに……」

「待ってって!」

「ん? どうした? あ~……。バリカンで髪の毛を剃るとかでも良いぞ。それか、こないだみたいに真っ暗にして、血が出たように見せかける拷問とかも――」

「一回黙れっ!」


 はい。ごめんなさい黙ります。 

 ……強がりで、色々言ったけど。

 

 ――足が、震えてもうてます!

 バレていないといいな……兄の尊厳が台無しだ。


「……骨、折るとか、砕くとか……冗談だし」

「え、そうなのか?」

「あ、当たり前じゃん。そんなの……。……できると思う? 私に」

「うん」

「……っ!」

「ごめんなさい嘘ですトンカチを降ろしてください! ……いや、僕はわかってるよ。弓音が、人に怪我をさせるような人間じゃないってことくらいな……」

「……だったら、言うな。あんなこと」

「でも――。そのくらい、僕のせいで傷ついてるってことも、わかるんだよ」

「……は?」


 弓音の表情が――変わった。

 さっきまでの、ちょっぴりセンチメンタルな……苦しそうなモノから……。

 ――憎しみのこもった、激しい怒りを感じるモノに……。


 そして、僕の胸ぐらを掴んでくる。


「あ、ごめんなさい痛いですやっぱりボコボコはやめ――」

「何がわかるって言うの!?」

「え――」

「……兄貴……。……お兄ちゃんは、全然、これっぽっちも、一つも、一ミリも、一ミクロンも、一マイクロチップもわかってないっ!!!」

「……マイクロチップは、違うんじゃないか?」

「うるさい!」


 ダメだ。こんなシリアスな場面で、普通にツッコんでしまった。

 反省しよう。僕も……ちょっと低めの声で喋ったら、シリアスな空気になるかな。やってみよう。


「……こんにちは」

「は?」

「あ、違うんです……」


 恥ずかしい……。


「……私は、お兄ちゃんが思うような人間じゃない……。真っ黒だし、汚いし、ぐちゃぐちゃだし……。……自分のことしか、考えてないの」

「は、はい……」

「だから――わかったような口を聞くのはやめて。それだけは――」

「いやだ」

「は、はぁ?」

「だって……家族だろ。僕たちは。わかったような口を聞く権利がある」

「何を……」

「もちろん、思春期だし、適切な距離感ってのもあるかもしれない。でも――どうせ、何をどうしたってこうなるんなら、僕はズケズケとお前の領域に踏み込んでいくぞ。もちろん土足でな。陸上部の時に履いてたガチガチのスパイクで――」


 弓音が……。

 ……僕の足を、踏んづけている。

 

「あの、い、痛いんですけど……」

「……で、できるよ。私……。お兄ちゃんのこと――傷つけられる。そんなの、全然怖くない。いつまでもそうやってふざけてるなら――本当に、ヤっちゃうからね……!?」

「……ふぅん。だから、やってみろって言ってんじゃん」

「……っ!」

「痛っ……」


 なぁ……。

 可愛くないか……? 僕の妹……。

 小さい足で、一生懸命、グリグリぐりぃ~ってさ……。


 しかも――。


 ……泣きながら、だぜ……?

 

「うぅ……! お兄ちゃんのバカぁ……! もっと痛そうな顔しろぉ……!」

「残念だが、お前が踏んでくれたおかげで、僕の足の震えもバレずに済んだみたいだな……! もっともっと踏んで良いぞ! ドM界隈では、踏まれることはご褒美と同義だ!」

「うぅう!! くそぉ!!」

「痛っ!!」


 かかとおとし……!

 さすがにこれは、めちゃくちゃ痛くて……。


 僕も……涙を流してしまう……。


「……お兄ちゃん、私のこと嫌いでしょ?」

「……え。全然。むしろ大好き」

「は……!? こんなことされてるのに……!?」

「うん……」

「……ぅらぁっ!」

「いぎっ゛!」


 また、かかとおとしだ……!

 こいつ……かかとおとしめちゃくちゃ上手いぞ!?


「つぅ……!」

「嫌いって、言ってよ……! 私のこと……! そしたら、諦められるじゃん! 全部!」

「え?」

「足、折れろっ! 折れろっ!」

「いだいっ! ごめんなじゃいっ! ぃいい!」


 めちゃくちゃ痛い……。

 涙と鼻水がドバドバ溢れてくる……。


 でも……。

 向き合わないといけないんだ。

 僕の勘が言ってる――。


 今日が……反抗期を終わらせる、チャンスなのだと。

 神様がくれた絶好の機会を、逃すわけにはいかないのだ――。


「嫌いって言え! お前なんか妹でもなんでもないって! この家から出て行けって言え! キモいって言え! 憎ったらしいって……言えよ早くぅっ!」

「……本当か?」

「……」

「本当に、言ってほしいのか?」

「……っ」

「じゃあ、言ってやるよ。僕は、弓音のこと――」

「やだっ!」


 弓音が……抱き着いてきた。

 あ……久しぶりの温もり……。


 ルールーも、温かいんだけど……。

 長浜さんも……おっぱいがあって、ホッカホカなんだけど……。


 ……全然、違う。

 小さい時から知ってる、本物の温かさだ。


「嫌いとか、絶対に言わないでよ……?」

「お、おう……。……メンヘラすぎないか。弓音」

「は?」

「いやすまん嘘嘘。これ以上はさすがに、足が持ちません……」


 弓音は……。


 ……部屋を出て行った。


 なんだろう。休憩時間かな。

 とりあえず……。


「うぅ……! マジ痛い……!」


 今のうちに……たくさん痛いって言っておこう……。

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