出会って二話でデート確定。
「全く……。頭を撫でてご機嫌取りだなんて、妙なことを想い着くんだな、君たちは……」
「な、なははははぁ~」
長浜さんが、しょうもない愛想笑いを返した。
僕は……流れに従って、才原さんの肩を揉んでいる。
「と、ところで、クッキーは……まだなのか?」
「あ……」
「もしかして……。……嘘を?」
「……ごめんなさい」
「そうか……。いや、良いんだ。別に……。騙される私も悪い……。……」
才原さんが、しょんぼりした様子で、俯いてしまった。
……クッキー、楽しみにしてたんだな。
口調からして、結構冷たい感じの人なのかと思っていたけど、案外優しい心を持っているのかもしれない。
それにしても……ナデナデが効かないなら、どうやって部活を承認させれば良いんだ……?
僕はさっきから、長浜さんに対して、どうするつもりなのだと、アイコンタクトを送って質問しているが、気まずそうに目を逸らすだけだ。
「ありがとう稲葉くん。それじゃあ私はそろそろ……」
「お願いしますぅう!!!」
長浜さんが――土下座した。
それはもう。綺麗な土下座。
「ま、待て。何だいきなり……」
「お願いしますっ! 部活を承認してくださぁあぁいっ!」
「ちょっ、お、おい……!」
「お願いします!」
「えぇ!? 稲葉くんまで……」
おっぱいのためだ……! プライドなんて必要ない!
長浜さんと一緒に、おでこを地面に擦り付け、才原さんの言葉を待つ。
「はぁ……。顔を上げなさい」
「お願いしますぅう!」
「やめっ……くっつくな。友達でもないのに」
「それは酷くないかしら?」
「才原さん……。なんとかならないかな。僕、おっぱっ……。……部活、頑張りたいんだ」
「稲葉くん……」
才原さんは……。
僕の顔を、ジロジロと見つめてくる。
そして、頭の先から……つま先まで。
まるで、ファッションチェックでもするかのように、僕の全身を確認した。
「……うむ。やはり、イケメンだな」
「え」
「は、春香! 稲葉くんなら好きなだけベロチューして良いから! 部活を作らせて!」
「淫らなことを言うな! 君は風紀委員じゃないのか!?」
「ぅうう! 正論禁止! 次正論を言ったら、大泣きしてやるわよ!」
「なんだその脅し方は!」
「あの、イ、イケメン……って……」
「あ、あぁ……」
ごほんっ。っと、咳ばらいをするついでに、才原さんは、腕にしがみ付いている長浜さんを引き剥がした。
長浜さんは、そろそろメンタルの限界らしく、いじけたように隅っこで体操座りをしている。
邪魔者もいなくなったところで……会話の続きをしよう。
「その……。実はだな。今度の土曜日に、カップル限定メニューを販売するケーキショップがあって……。……どうだろう。君が彼氏のフリをしてくれるのなら、部活を承認してやろうと思うのだが」
「え、そ、そんなことで良いの……!?」
「あぁ。正直、部活なんて勝手にやってるようなヤツもいるからな。もちろん、承認があった方が、活動はしやすいが」
「……そういう話なら、僕……喜んでデートするよ!」
「わっ、で、デートじゃない! 彼氏のフリだ!」
照れたように頬を染める才原さんは……。めちゃくちゃ可愛い。
どうしよう。好きになりそうです。
……ルールーもそうだけど、女の子が照れてる時の顔って、なんでこんなに可愛いんだろうな。
「凛子も! それで良いか?」
「どうでも良いで~す」
「なにぃ!?」
「どうせ私は友達がいっぱいいる春香からしたらそのうちの一人のモブでしかないんですよ~~だ」
「いや、だから、友達ですらないと言っているのだが……」
「ぼきっ!!!」
「え」
「心が折れた音よ! びぇ~~~んっもういい! 二人でデートでもなんでもすれば良いじゃない! ばーかばーかっ! あほ! 私よりおっぱい小さいくせに! 中学三年生まで熊さんのパンティを履いてたくせに!」
「な、なぜそれを……!」
長浜さんは、大声で喚きながら、どこかに行ってしまった……。
……自分が、頭を撫でてほしくて部活を作ったのに、いなくなってどうするんだよ……。意味ないじゃん……。
「ち、違うぞ!? 稲葉くんっ! 熊さんパンティは、たまたま最後の供養と思って、中学三年生の時にだな……!」
「気にしないって……。……それよりさ、あの……。デートの話なんだけど」
「デートじゃない! ケーキだ!」
「その言い換えもどうかと思うけど、まぁいいや……。……で、その……彼氏役に、僕を選んでくれたのは、なんでなんだ? 生徒会長って、確かイケメンだったような……。そっちでも良くない?」
「バカだな君は。書記の私が、会長と歩いているところを見られてみろ。学校中の噂になるぞ」
確かに……。言われてみればそうかもな。
……え。それってつまり、僕に友達がいないから、バレても誤魔化せそうって思ってるってこと?
「君みたいな、せっかく顔は良いのに、陰キャのオーラが滲み出ているような生徒は、仮に他の生徒に見られても、事情を説明すれば理解してもらえるからな! こういう時には役に立つんだ!」
……自分で理解してたのに、わざわざ追い打ちのように説明されてしまった。
「た、ただ……。勘違いしないでくれよ?」
「わかってるって。才原さんが、僕のことが好きとかは、思わないよ」
「そうじゃなくて……! まぁ、それもそうなのだが……! ……ごほんっ。……き、君は、それなりにイケメンで、私の隣に立っていても、違和感なく店員さんに彼氏と認めてもらえそうだから、選んだ……という経緯もある。それだけは誇りに思ってくれ」
ちょっとだけ……回復しました。
けど……プラマイゼロって感じですね。はい。
「それで、だな……。土曜日の前に、今日あたり……一旦、予行練習をするというのはどうだろう」
「予行練習?」
「そうだ。当日いきなり、彼氏彼女のフリをするなんて、難しいだろう? ああいうイベントは、嘘のカップルが紛れ込んでないか、厳しいチェックがあったりするものなんだ」
「ははぁ……なるほど……。……でもごめん。今日は僕、バイトがあるんだ」
「なにっ!? し、しかしだな……私の方も、今日くらいしか……。……バイトが終わるまで待っていよう。……迷惑か?」
迷惑か? って言いながら、上目遣いで見つめてくるの……反則すぎない?
高身長で良かった……! って、人生で一番思った瞬間かもしれない。
こんな態度でお願いされたらさぁ……断れないじゃん……。
「……わ、わかった。今日は早めに終わる日だから。近くで待っててくれる?」
「あぁ。よろしく頼む」
仕事って言っても……。ルールーの頭を撫でたら、それで終わりみたいなもんだしな。
サクッと終わらせて……。
……僕の周りにいる、唯一常識を持った女の子との、楽しい時間を過ごそう。
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