おっぱいを揉むために入部する男。

「部活を作るわ」


 長浜さんが、おかしなことを言い始めたので、頭を撫でて無力化することにした。


「ほにゃはらへぇ♡ んほっ♡ いひぃ♡ なでなでやめてっ♡ 今は違うのぉ♡ 真面目な話がしちゃいぃのっ♡ あぁでも頭にゃでにゃでしゅきぃ……♡ もうどうでもいいやぁ……♡」

「良いのかよ……」

「良くないわよ!」


 長浜さんは、なんとか僕のナデナデ攻撃から逃げ出した。

 あ、今更ですが、昼休み中です。

 昼食の時間すら削られて、頭を撫でさせられてるんです。誰か助けてくれませんか?


「部活を作るわ!」

「なんでそんな……。ライトノベルのヒロインみたいなこと言い出すのさ」

「あなた……帰宅部でしょう? バイトしたいがために帰宅部に甘んじているだなんて、学生らしさが足りていないと思わないかしら」

「いやむしろ、学生っぽいんじゃないか……?」

「いいえ。本学校は文武両道を売りにしているのよ? あなたの場合、どちらの道もズタズタじゃない。それなのにバイトをやるだなんて、許される話ではないわ」


 ……武は別として、勝手に頭まで悪いと思われてるのは、心外だな。


「どうせ……。部活に入部させれば、バイトに行く時間が減る……とか、そういう作戦でしょ?」

「は? 殴るわよ?」

「おい風紀委員」

「わかった。認めるわ。……そうよ。あなたにもっと頭を撫でてほしいから、部活を作るの。私は確かに、頭をたくさん撫でてもらう権利は、あの貧乳に奪われてしまったけれど、一緒に部活をして共に汗を流す権利までは奪われていないはずよ」

「……ズル賢いなぁ」

「ズルじゃないわ。シンプルに賢いの」


 長浜さんは、デカい胸を張りながら、誇らしげに言ってみせた。

 本当に大きい。おばあちゃんが作るコロッケくらい大きい。


「もう部活名は決めてあるのよ。名付けて、軽音部」

「名付けてもクソもないじゃん。軽音部じゃん」

「えぇ。軽音部なら、あんまり楽器を弾かずに遊んでいても、怒られづらいイメージがあるわ。ピアノの前に二つ椅子を並べて、頭ナデナデいちゃいちゃタイム……♡ ぐへへへぇ……♡」

「ピアノは軽音に入らないんじゃない……?」

「いや、なんでも良いのよ。撫でてもらえるならね」


 ……逃げないと。

 長浜さんはめちゃくちゃな女の子だから……油断していると、本当に軽音部に入れられてしまう。

 令和の時代に軽音部は古いだろ……! って、誰に言われるかわかったもんじゃない! 何としてでも回避せねば……。


「ご、ごめん長浜さん。僕、用事――」

「おっぱい」

「え」

「おっぱいを揉ませてあげるわ」

「……へ?」


 今……。

 長浜さんは、おっぱいって言ったか?

 いや、おっぱいどころじゃない。


 『おっぱいを揉ませてあげる』と言ったように聞こえた。


 僕は……。

 ……とりあえず、席に座り直した。 

 そして――長浜さんの制服の中で、苦しそうに張っているおっぱいに注目する。


「あの、おっぱいさん……」

「誰がおっぱいさんよ。私の目を見て会話しなさい」

「あ、ごめん……。……あの、えっと……。おっぱい、も、揉ませてくれるの……?」

「いきなり童貞丸出しになったわね……。……良いわよ? 揉ませてあげる。ただし、その条件が――」

「軽音部に入ること。だろ? 良いよ入る入る。おっぱい揉ませてくれるならめちゃくちゃ入る。バイトも辞めるよ。おっぱいおっぱい」

「お、落ち着きなさい……」


 そうだな。落ち着こう。

 箸を持つ手が震える。

 今日の弁当は、自分で作ったヤツなんだ。美味しく食べたい。落とすわけにはいかない。

 ……おっぱい。


 あ……卵焼きが落ちた。


 おっぱい……。


「おっぱい……」

「はぁ……。あなた、本当におっぱいが好きなのね」

「おっぱいだよ」

「……軽音部に入って、あなたが正式に部員として活動した実績を作ったら、揉ませてあげるわ。今揉ませてしまったら、名前を書くだけ書いたあと、サクッとおっぱいを揉んで、逃げられてしまいそうだもの」

「僕はそんなことしないよ!」

「ひっ!」


 思わず机を叩いてしまった。

 が……きちんと言わざるを得ない。


「おっぱいだけは……裏切らない。絶対にね」

「……わ、わかったから。そんなに見つめないでちょうだいよ……」


 おっぱい……じゃなかった。長浜さんは、恥ずかしそうに俯いて、頬を赤らめた。

  

 ……僕もとうとう、おっぱいを揉むことができるチャンスを掴んだんだな……。

 感慨深いよ……弓音に報告したいくらいだ。

 まぁ、そんなことしたら、殺されちゃうんですけどね。


「先に……おっぱいのレートを決めておきましょう」

「おっぱいのレート?」

「そうよ。あなたが私に提供できることで有名な――頭ナデナデとの為替レート」

「なんだか、経済的な話になってきたな」


 考えてみれば、おっぱいって経済だもんな。うん。


「一回撫でるごとに……三回揉み揉みでどうかしら」

「おっぱいが安すぎない……!?」

「え、そ、そうかしら。私、毎日自分で揉んでるから、基準が――……っ!」


 長浜さんが、慌てて口を手で押さえたが――遅い。

 僕は聞き逃さなかったぞ。毎日――おっぱいを自分で揉んでいる。という美しい文字列をな!


「だからそんなに大きく成長したのか……」

「変態……!」

「自分のおっぱいを揉ませて、頭を撫でてもらおうとしている人に、変態とか言われたくないんですけど」

「正論ね」


 こうして、僕と長浜さんは、軽音部を作ることになった。

 

 ……ラノベ史上、こんなに酷い部活の設立経緯が、あっただろうか。きっとないだろう。本当にごめんなさい……ラノベの神様――。

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