露骨な妹メンヘラ確定フラグを立てます。

 さて。

 帰宅しました。


 家に向かっている途中で、ですね。

 

 両親から――今日は用事があって帰らない。

 と、メッセージがスマホに届いておりまして。

 まぁ、逃げようとも思ったんですよ。


 でも……。

 一応、誠意を込めた謝罪は、しておくべきだよなぁ。

 なんて、思い直しまして。


 今、僕は……弓音の部屋のドアの前に立ってます。


「ゆ、弓音~?」


 ドアをノックする。

 返事はない。

 その代わりに……足音が聞こえて……。


「……お帰り」


 ゆっくりと、ドアが開いた。

 弓音は……。

 ……意外にも、スッキリした表情をしている。


「弓音、あの……」

「……ごめん」

「えっ」

「私……ちょっと、取り乱してたかも」


 弓音が――謝った?

 反抗期の我が妹が、兄である僕に、ごめんと言ったのか……?


「……え? 僕、殺される?」

「なんでそうなるワケ!?」

「ひいぃっ! 大きな声を出さないでください!」

「……良いから。部屋、入ってよ」

「お、おう……」


 弓音の部屋に入るなんて、何年……。

 ……いや、つい最近入ったばかりだった。

 アレはノーカウントということで。


「えっと、あの……。どこに座れば良いですか?」

「……」

「……弓音さん?」

「……え? あ、あぁ。どこでも良いけど」

「本当か? ……いや、勝手に座ったら、兄貴のキモキモが付着するから~とか、言われるかなって思ってさ」

「それは別に、消臭すればなんとかなるし」

「ごめん。一番傷つくかもそれ」


 無難に、カーペットの上に座りました。

 弓音の方は、ベッドに腰かけて、足をぶらぶらとさせている。


「弓音、その……。改めて、悪かったよ……。頭で実験するようなことしてさ……」

「それはもう、良い」

「そ、そうか? ……あぁあと、お前の許可なしでバイト始めたこととか、可愛い美少女とイチャついてたとか……」

「どうでもいい」

「……えぇ~。そうなの?」


 なんだ……マジで冷静だな。めちゃくちゃ怖い。


 さっきから、僕の方全然見ないし……。

 ……足のぶらぶらは、どんどん激しくなってるし。

 何か、他事を考えているように見える。


「弓音、あの――」

「兄貴さ。今はどうなの」

「え?」

「私の頭を撫でて……メロメロにしたいって、思ってんの?」

「……メロメロはおかしいだろ。兄妹なんだし。でも――昔みたいに、仲良くなれたらって……思うな」


 弓音は……。

 ……ちょっとだけ、頬を赤く染めた。


「私、反抗期だから……今は無理」

「自分で反抗期って言うヤツは珍しいぞ……」

「うっさい。……で、メロメロはまぁ、置いといて。頭撫で回したらさ……。私、反抗期が治るかもしれないじゃん。なんでしなかったの?」

「え……。そりゃあだって、そんなことで治しても、根本的な解決にはならないからな」

「……ふ~ん」

「なんだよ。ふ~んって」

「それ以外の方法で、根本的に解決する予定が、あるって言うんだ」

「……あれば良いな」


 思わず、苦笑いしてしまった。

 難攻不落とは、まさにこのことだと思う。


 三年生の時……彼女なんて、作らなきゃ良かったなぁ。

 アレきっかけで、弓音の反抗期って、加速したような気がするし。

 まぁ、今更悔やんでも遅いけど。


「じゃあ、兄貴は――自分から私の頭を撫でることは、ないってこと?」

「まぁ、そうなるな」

「あっそ。わかった。話は終わり。出てけ」

「うっ……。……わかりました……」


 僕は大人しく……弓音の部屋をあとにした。

 殺されはしなかったけど……。

 思春期の兄と妹が抱える一般的な問題は、解決しなかったように思えるな……。


 ◇ ◇ ◇


「ぐひっ♡ うへへへっ……♡」


 お兄ちゃんが座った部分に、私は頬を擦り付けてる。

 匂いもたっぷりと嗅いで……♡ 

 夜の幸せなひと時のオカズにしようと思う!


 さて。

 お兄ちゃんは……私をメロメロに堕とすつもりはないらしい。

 絶賛反抗期中の私を、何か別の方法で元に戻したがってるけど、それが思いつかないみたいだね。


 ……私の方も、素直になるのは、なんか負けた気がするから、イヤなんだよなぁ。

 

 頭を撫でてもらって、それで……反抗期も治りました~! なんてアホなことができたら、どれだけ楽だったことか。 

 

 ――あの二人。

 長浜凛子と、宮永なんちゃらチビ美。

 このまま放置すると……前と同じ展開になってしまう。

 私はまた、お兄ちゃんの彼女に嫉妬して、反抗期が加速して――。


 それだけは絶対に避けないといけない。

 今、私の中には二つの問題が発生しているのである。

 

 一つ。反抗期からなかなか抜け出せない。

 二つ。お兄ちゃんの周りに、たくさん女がいる。


 そして、どちらも――。

 私がお兄ちゃんと、一生幸せに二人きりで暮らす――という、最終目標の妨げになる、最悪の壁だ。

 理屈で完璧に攻め落とす――なんて、言ってる場合なのかな。

 

 もういっそ、プライドとか全部捨てて、「お兄ちゃんとずっと一緒にいたいから、二人とは関わらないでっ!」って言った方が良いのかな。

 ……重いか。


「はぁ~~……」


 デカいため息をついてしまった。


「すぅう~~♡ ……んひぃ♡」


 お兄ちゃんのお尻から染み出したフェロモンを、カーペットから吸引する。最高の呼吸。

 だいぶいい気分になってきた。

 ジュースでも飲んで、勉強しよう。


 リビングに向かうと……。


「……すぅ」


 お兄ちゃんが――ソファーの上で眠っていた。

 多分、色々疲れることがあったんだと思う。

 つけっぱなしのテレビを消して……。

 ……たまには、ブランケットでもかけてやるか?


 いやいやいや。そんなことをしたら、私の反抗期ポリシーに反する。


「……っ」


 目に入ったのは――お兄ちゃんの手。

 撫でられた時の……脳みそが弾けるような気持ち良さが、想い出されてしまう。


「ちょっとだけ……。……良いよね?」


 お兄ちゃんの手を、掴んで……。

 自分の頭に――乗せた。


「っ!?♡」


 慌てて離して、距離を取る。

 

 これは――ヤバイ♡

 一瞬で、お兄ちゃんへの愛が溢れて、抱きしめそうになるっ♡


「はぁ♡ はぁ……♡ んっ……♡ ふぅ……♡」


 部屋に戻って、自分を慰めよう……!


 私は駆け足で部屋に戻り、ジュースを飲むこともなく、お兄ちゃんの手の感触を想い出しながら――『最高』になった。


 ◇ ◇ ◇


 どうしよう。

 今、起きたことを説明します。


 ソファーでボーっとしてたら、眠くなったから、ちょっと目を閉じてたんだ。


 そしたら――弓音がやって来て。

 自分で、僕の手を、頭の上に……。

 ……。

 アレかな。毒を飲んで、抗体を獲得する……。みたいな。

 頭を撫でられても、全く効果がなくなるようにして、僕を無力化しようとしている説がある。

 

 ……疑われすぎじゃない? 僕。

 色んなこともあったし……。


 しばらくは、妹と距離を取った方が良いか――。


 ◇ ◇ ◇


「この『妹と距離を取る』という決断が、のちの『監禁事件』に繋がるわけだが――」


「……うむ。やはり兄妹というのは、仲良くあるべきだな。と、私は思う」


「そんな私は、誰かって……?」


「ふふっ。それは――次の章を楽しみにしてくれたまえ――」

 

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