バイト仲間はハーフ美少女(めちゃめちゃ可愛い)

「高校二年生の、稲葉健です。今日からここでバイトすることになりました。よろしくお願いします」

「変態さんですね。わかりました」

「いや、あの……」

「私は、宮永みやなが・ルールー・清美きよみです。よろしくなのです」


 宮永さんは、ちょこん……っと、頭を下げた。

 

「じゃあ、あの……僕は、外で――」

「何を言っているのですか? 別に出て行く必要はありません。ルールーは、何も恥ずかしくないので。なぜなら? 大人の? せくしぃ~っ♡ な、女性ですから? 高校生のガキンチョボーイにパンティを見られたって、何も恥ずかしくありませ~んっ」


 名前からして、ハーフなのだろう。

 色白で……。……照れているのが丸わかりだ。

 僕としても、パンティ丸出しの女の子と密室で二人きりというのは、さすがに気が引ける。

 出て行こうとすると……宮永さんが、手を引っ張ってきた。


「待つのです。どうして逃げるのですか? ルールーの話を、聞いていなかったのですか? ルールーは先輩ですよ? 一言も聞き漏らしたらいけないのです。ぬんっ」

「ぬ、ぬんっ……」

「とにかく。ルールーは別に、パンティを見られたくらいで、動揺も何もしないのですから。そこにいれば良いです。なんなら稲葉くんもズボンを脱いで、パンツを見せるのです。パンツ見せ合い歓迎パーティなのです」


 なるほど。


 この人――変人だ。

 いくら客が少ないとは言っても、共に働く店員が変人では、きっと長くは耐えられないだろう。

 辞める言い訳を考えつつ。僕はその辺の椅子に腰かけた。


「ふんふんふふふぅ~んっ♪」


 宮永さんは……僕から興味を失ったのか。また鼻歌を口ずさみながら、ノリノリで首を振り始めた。


「野菜はトマトとマーボー茄子♪ ふふふんふんふんっ――♡」


 どんな歌だよ……。

 

 ……。


「セロリはびっくり山芋アイスっ♪」


 ……。


「ココナッツぅ~の白鷺に~♪」

「あの」

「ライオン畑に住むオクラ~♪」

「あのっ」

「木枯らし恥ずかし鰹節~♡」

「あのっ!」

「ひゃおんっ!?」


 全く気が付いてくれないので、ヘッドホンを外させてもらった。


「なんで邪魔をするのですか!? 今、サビの途中だったのに!」

「サビだったんですかアレ……。……あの。いつになったら、着替え終わるんです? パンティ丸出しのまんまじゃないんですか」

「何を言っているのですか? パンティはしばらく丸出しなのです。ルールーは、一度下着姿になってから、このカフェ~の制服に着替えるというルーチンなのですよ!」

「……ヘッドホンで曲を聴いていたら、いつまでも進まないじゃないですか。……やっぱり僕、外で――」

「……ふふん。しょうがないのです。お子様には、ルールーのせくしぃ~♡ なボディは、刺激的すぎるですからっ! 大人しく尻尾を巻いて逃げると良いのでぇ~すっ!」


 ムカつくんですけど……。

 

 僕はため息をつきながら、控え室を後にした。


 ◇ ◇ ◇


「ではではっ! 変態さんに、先輩の私が、お仕事をレクチャーするのですよ!」

「お前、年下なんだってな」

「んなっ!? お、お前ぇっ!?」


 宮永さんが、僕を睨みつけてくる。

 けど……背が低いし、可愛いから、全然威圧感がない。


「店長から聞いたよ……。入ったの、二週間前なんだって? 僕とそんなに変わらないじゃん……。しかも、シフトは今日まだ三回目ってことはさ……」

「それ以上言わなくて良いのです! 事情はどうあれ、この店においては先輩なのですから、嘘は言ってないのですよ!」

「まぁ、そうだけど……」

「良いから、ルールーの仕事っぷりをそこで見て、技術を盗むのです! 職人は、多くを語らないのですよ!」


 ただのバイトが……職人って。

 この子……やっぱりオカシイよな。

 はぁ。なんでよりにもよって、初バイトでこんな貧乏くじを引き当ててしまうんだ。ついてない。


「まずは、コーヒー豆の運び方を教えまぁ~すっ! ほとんどお客さんは来ないですけど、店長……マスターの元に、注文があった時、運ぶ練習をするので~す!」


 コーヒー豆の……運び方?


 いや、そんなの……運び方なんてあるのか?

 疑問に思っていると……。

 

 宮永さんが、いきなり、コーヒー豆の入った袋に手を突っ込んで――豆を掬い上げた。


「な、なにしてんの?」

「このま、ま……っ! 溢さないように、持っていくのです……! 一つでも溢したら、やり直しなのですよ……!」

「……」

「そ~っと、そ~っと……。……あっ」


 宮永さんが、何もないところで躓いたので、僕が支えてやった。

 ちょうど、胸の辺りだったんだけど……。何の膨らみも感じない。


「は、離すのです! レディのおっぱいを触るなんて、最悪なのですよ!? 早く捕まれば良いです! 変態! エッチマン!」

「あの、豆……落ちたけど?」

「稲葉くんのせいなのです! ルールーの代わりに拾うのです!」

「えぇ……」


 まぁ……可愛いから、拾ってやろう。

 

「あのさ……。宮永さん。こんなこと毎日やってんの?」

「やってるのですよ?」

「一人で?」

「一人なのです。アルバイトは、ルールーが入るまで、いなかったみたいなのです」

「へ~」

「つまり、ルールーがバイトリーダーなのですっ!」


 可愛いなぁもう。

 頭を撫でっ――。


 ……危なっ。

 うっかり、宮永さんを虜にしてしまうところだった。


「他にもたくさんたくさん、やることがあるのです! 全部教えるのですよ!」

「お願いしま~す……」


 後から、店長に聞いた話だが。

 もちろん――宮永さんに教えた仕事は、九割方彼女をからかうためのイタズラのようなもので、本当の仕事は何一つありやしないそうである。

 コーヒー豆を手で掬って運ぶとか、ありえないだろ。気づけよ。


 でも……そこを気づかない天然な性格が、宮永さんの魅力でもあるかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


 さて。


 そんなこんなで、僕は無事に……バイトを始めることができたわけだが。

 

 ――どうやら、弓音は……良く思っていなかったそうで。


「……弓音~?」


 僕と……一切顔を合わせてくれなくなってしまった。

 

「お~い。弓音~」


 ドアをノックしても、返事がない。

 

「健。あんたたち、まだ反抗期なの?」

「おい母さん。僕を反抗期で一括りにしないでくれよ」

「同じようなもんでしょ。いきなり、四万円落としたからバイトしたい~なんて。反抗期以外の何物でもないわ」


 母さんは過保護だ。

 弓音の性格は……間違いなく、母さん譲りだろうな。


「私、お風呂入るけど。一緒に入る?」

「父さんと入ってやりなよ」

「嫌よ。三人目ができちゃうわ」

「……」

「じょ、冗談冗談。あはははは~」


 母さんは、誤魔化すように……浴室へ向かった。

 弓音と違う点があるとすれば……絶望するくらい下品ってところくらいだな。

 僕の変態成分は、間違いなく母さんから引き継いでいる。


 僕も、部屋に戻ろうかな……と、思った、その時だった。

 

 弓音の部屋のドアが――開いたのだ。


「弓っ――」

 

 声をかけようとした瞬間……。


 腕を引っ張られて――中に引きずり込まれた。


「えっ、あっ……」


 部屋は真っ暗で……。

 僕はそのまま、ベッドに押し倒されたようである。


「は、え? なに……!?」

「……兄貴」

「はい!?」

「……私、今からいくつか質問しようと思うの。――嘘ついたら、待ち針で喉をぶっ刺すから。ちゃんと答えてね?」


 あの……。確認しても良いでしょうか。


 ここって……我が家ですよね?

 人間にとって、一番の安心スペースであるはずの、実家……ですよね?

 だって、実家のような安心感とか、よく言いますもんね?


「ふふふ……。じゃあ、早速一問目……。兄貴は――あの女にプレゼントを買うために、バイトを始めた。私に何の許可も取らず。はいか、いいえで答えてね……?」

「そ、そんなの、いいえに――」

「はい。さようなら」

「えっ――」


 僕の首に――。


 ぷすっ。


 何か、鋭利なものが――突き刺さった――。


「嘘、だろ……?」


 首筋に垂れる……生温かい液体。


「ひ、ひひひひっ! ひひひひひひひっ!」


 真っ暗な部屋にこだまする――弓音の笑い声。

 どうやら、僕は――。


 ◇ ◇ ◇


「そんなわけないでしょ。バカじゃないの?」


「あ~あ。こんな古典的な引き、通用するわけないじゃない。良いからさっさと、私の出番を増やしなさい? 頭撫でてもらわないと、脳みそがドロドロに溶けて、鼻の穴から漏れちゃうのよぉ……♡」

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