第2章 バイト先のドジっ娘後輩を堕とす。

風紀委員を撫でる。そしてバイトを始める。

 前回のラブラ――。


 すまん。なんでもないんだ。

 前回までのあらすじ。

 

 僕は突然、女の子の頭をナデナデするだけで、メロメロにしてしまう能力を手に入れた。

 その能力のせいで、真面目な風紀委員の長浜さんを、薬○中毒みたいな状態にしてしまったり。

 実の妹の稲葉弓音に――お漏らしをさせてしまったりしたのである。


 いや、正確に言うと、この時の僕はまだ……弓音の本心には気が付いていなかったんだけど。

 今考えたら……めちゃくちゃ露骨だよな。あいつ。うん。


 まぁそれは良いとして。

 弓音に全財産を奪われた僕は、お小遣い支給日までを、無一文で過ごさないといけなくなってしまった。

 でも……多感な時期の高校生男子だから、買いたいものは山ほどある。

 

 秘密漫画とか。 

 秘密漫画とか。

 ……秘密漫画とか。


 そんなわけで、僕は――。


 意を決して、バイトを始めることにした。

 した。んだけど。


 そこでもまた……トラブルに巻き込まれてしまうんだよなぁ……。


 ◇ ◇ ◇


「頭ナデナデしてっ……?♡」


 朝から風紀委員室に呼び出された僕は……。

 長浜さんに、両手を握られていた。


 なにこれ。カップル? 

 僕たち、付き合ってましたっけ。

 前回のあらすじで、意図的に跳ばしたのかな。ん? よくわからないけども。


「あの……。長浜さんってさ、風紀委員だよね?」

「そうでなかったら、この風紀委員室に立ち入ることはできないわ」

「風紀委員ってさ……。学校の風紀が乱れないように、活動してるんじゃなかったっけ」

「そうよ?」

「だからこそ僕は、毎日のように、秘密漫画を没収されてたんだよね」

「その通りね。ちなみに今日も没収するわよ? 撫でてもらった後にね」


 ちっ……バレてたか。

 長浜さんがこんな状態になってしまったので、もしかしたら見逃してもらえるのかなと思って、期待したけど……そんなに甘くなかった。


「ねっ、ねっ。そんなことどうでもいいから、早くナデナデしなさいよっ♡」

「いや……。これこそ、風紀が乱れているような気が……」

「じゅるっ……。んっ、ふふっ」


 涎で、口回りがベトベトだ……。


「もうね。あなたの手を見るだけで、唾が口内に溜まってきちゃうのよ。パブロフの犬みたいなものかしら」

「なんかさ……。人の好意を操るなんて、絶対に許さない……。みたいなこと、言ってなかった?」

「言ってないわね」

「めちゃくちゃ嘘つくじゃん……。いや……撫でるのとか、止めた方が良いでしょ。僕のこと――好きになりたくないならさ」


 自分でこんなこと、言いたくないけど。

 長浜さん、明らかに僕と相性悪いし。

 ……こっちもこっちで、事情が判明した以上、迂闊に撫でられないんだよ。


 それでも長浜さんは、首を横に振る。


「あのね稲葉くん。依存症を治す時は、徐々に量を減らさないとダメなのよ。いきなりゼロにしてしまったら、頭がおかしくなって、授業中に大声で叫び出してしまうかもしれないじゃない。そんなことになったら、私の人生は終了よ? わかる? あなたは今、私の人生の大事な大事な舵を取っていると思いなさい。一つ一つの行動に責任が生じるの。一人の人生ではなくて、私の――」

「わかったわかった。撫でるから。難しいこと言わないでよ」

「早くしなさい」


 僕は……。

 ……躊躇いつつも、長浜さんの頭を撫で始めた。


「んはぅ……♡ うひょぉ~♡ これよこれっ♡ しゃいこぉ~♡」


 絶対に人前で見せるべきではない顔で、長浜さんが喜んでいる。

 スマホで撮影して、本人に確認させてやりたいくらいだ。


「その……さ。なんでそんな風になっちゃうのかな……。好きとか嫌いとか、関係なくない……この状況……」

「しょんなこと、にゃいわよぉ……♡ あひぃ~ん……。幸せな気持ちが、じょわじょわじょわぁ♡ って溢れてくるのぉ……♡ ん、おほっ♡ もっと頭のしゃきっぽ撫でて♡ よちよちしてっ♡」


 頭の先っぽって……。ここか?


「んにょほおぉ~!♡ しょこっ♡ しょこしゅきっ♡ ぐぃぐぃってしてっ♡」


 あの……頭を撫でてるだけなので、みなさん勘違いしないでくださいね?

 エロいことなんて、全くしてないですから。どうか見逃してください。

 

 その後も、五分程度撫で続け……。


「ふぅ……♡ だいぶスッキリしたわ。ありがとう稲葉くん」


 ようやく長浜さんは、憑き物が落ちたような、晴れやかな表情を見せてくれた。

 ホッと一安心である。


「じゃあ、放課後も――」

「あ、ごめん……。放課後は僕、用事があるんだ」

「ないでしょ。友達がいない上に、家には反抗期の妹しかいない癖に。しゃしゃってんじゃないわよ」

「調子を取り戻したからって、いきなり辛辣になるの止めない?」


 僕がそう言うと、長浜さんは切羽詰まった様子で、また僕の手を握ってきた。


「無理よ! 無理無理無理っ! この手無しで放課後を乗り切るとか絶対無理っ! 会議中にゲボ吐いてみんなをドン引きさせてしまうわ! そしたら私の風紀委員長になる夢は、がらがらがっしゃんほいっ! なのよ!? あなた責任取れるの!?」

「だから……。……そんな人は、風紀委員長に、向いてないんじゃないかな」

「正論はやめなさい。ぶん殴るわよ?」

「風紀委員……」


 結局、用事の前に、長浜さんの頭をササッと撫でる……という話で、解決した。


 僕が放課後に向かったのは――とある人気の無いカフェだ。

 こないだの土曜日に面接を受けて、その場で合格した。

 今日が、バイト初日なのである。


「緊張するなぁ……」


 店内に入ると……。

 ……お客さんは、ゼロ人。

 心の中でガッツポーズをする。


 働いたら負け――それが僕のポリシーなのだ。

 今回ばかりは、悪魔に魂を売る形で、労働を体験させてもらうけどね。

 

 店長さんに挨拶を済ませて、バイトの控室に向かう。

 ドアをノックしたところ、反応がなかった。

 あれ……。店長さんの話だと、他にもバイトがいるって言ってたけど……。


 不思議に思いつつ、ドアを開けて、入ると――。


「ふんふんふんふぅ~んっ♪」


 ヘッドホンを付けて……目を閉じながら、楽しそうに鼻歌を歌っている、背の低い……緑色の髪の、女の子がいた。


 いたのは、問題ないんだけど。


 服装が――アウトだ。


「ふんふんふっ……。……!?」


 上は――制服。

 下は……パンティ。

 お着換えの……真っ最中である。


 あぁ。そう言えば。ネットで調べた、バイト先での振る舞い方に、こんなことが書いてあったっけ。


 『初対面が一番大事!』


 終わったね。お疲れさまで~すっ!

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