反抗期の妹も即堕ちです!

 あの長浜さんの乱れっぷりを見るに……。

 ……僕の手に、何かしらの能力が宿った可能性がある。


 が、しかし。まだそう言い切れるわけじゃない。

 だって、単に長浜さんが、頭よわよわ女子って可能性もあるじゃないか。

 あぁこのよわよわっていうのは、中身じゃなくて、感度の話ね。

 ……まぁ、中身もよわよわなんだけどさ。


 置いといて。


 そう……つまり、長浜さんが単に感じやすいだけだった説もあるし。

 僕が――元から超絶、頭を撫でるのが上手かった。そんな説もある。

 だけど、昔、妹の頭を撫でた時は……全然嬉しがってなかったんだよな。

 

 ……最近、妹の頭、撫でてないなぁ。


「ただいま~」


 お。噂をすればなんちゃらら。

 妹の弓音ゆみねが帰ってきた。

 高校に入学してから、髪の毛を金色に染めて、絶対に近づいてくるなよ……!? というオーラがプンプンと漂っている、絶賛反抗期中の妹である。


「は? なんで兄貴がいんの?」


 リビングのソファーでくつろいでいた僕を、早速睨みつけてきやがった。


「いや、いるだろ。この家の住人なんだから」

「マジキモい……。視界に入らないで。キモキモがうつる」

「キモキモってなんだよ」

「喋らないで。キモキモで喉が腫れる」

「キモキモ万能だな。おい。そんなことより弓音、手洗いうがいはしたのか?」

「うっさい……今からだっての」


 舌打ちをして、弓音は洗面所に向かった。


 はい……。

 ご覧の通り、見事な反抗期です。

 でも、勘違いしないでほしい。

 本当は優しい子なんです。

 

 人間の本能のメカニズムで、兄弟とか父親とか、血の繋がっている関係の異性とは、子供を作らないために、嫌いになるという仕組みになっているのだ。

 つまりこれは、弓音の意思には関係なく起こる……仕方のない現象なのである。


 簡単に言えばそうだな。しゃっくりみたいなもんだ。

 そのうち止まると信じて、僕は優しく接し続けようと決めている。


「うわ……まだいた」


 リビングに戻ってきた弓音は、汚物でも見るかのような目を僕に向けてくる。


 そんなに目に入れたくないなら、さっさと部屋に行けば良いのに……と思うが、どうやらジュースが飲みたいらしく、冷蔵庫に向かった。


「あ、僕もジュース飲みたいな」

「トイレの水でも飲んでれば?」

「辛辣すぎるだろ。我が妹よ」

「うっさい。喋んないでよマジで。耳が腐る」

「腐らないよ。僕の美声を舐めてもらっちゃ困るぜ。声で人を癒すことができるって噂なんだ」


 その場で軽く歌ってみせたところ……頭を叩かれた。


「痛いんですけど!?」

「もう暗くなってきたのに、大きな声出すな。近所迷惑」

「うっ……母さんみたいなこと言うじゃん……。親子って似るんだなぁ」

「兄貴は父さんに似てきた。マジでキモいからやめてほしい。お面被って生活して?」

「そういう部族みたいになっちまうぞ……。お前の兄が、近所で仮面ラ○ダーって呼ばれても良いのか?」

「私に兄はいないって言うだけだから」

「冷酷な女め……」


 弓音は椅子に座り、りんごジュースを飲んでいる。

 テレビをつけて……大して興味もなさそうなニュース番組にチャンネルを合わせた。

 

 ……金色の、鮮やかな頭部に、どうしても目が向かってしまう。

 え……いや、嘘だろ僕。まさか――妹で、試そうとしてるのか?

 ダメだろそれは。

 万が一……僕の手に宿った能力が、頭を撫でた女の子を『気持ち良く』できてしまう……みたいな話だったら、どうするつもりなんだよ。

 

 ……まぁ。

 そん時は、そん時だ。

 

 テレビに気を取られていて、隙だらけだし……今のうちに、ナデナデしてしまうおう。

 抜き足、差し足……。


 弓音の、長くてサラサラな金髪に……僕は、手を伸ばした。


「ひっ」


 弓音が、小さく悲鳴をあげる。

 構わず僕は、丁寧に……頭皮に指を当てながら、撫でていく。


「んっ……! ……っ」


 ……間違いない。


 僕は――何かしらの能力を手に入れている。

 だが、頭を撫でることにより、どんな効果が表れるのかはわからない。

 単に、くすぐったくさせるだけなのか、それとも――。


 ……秘密漫画みたいな展開に、持ち込めてしまうのか。


 もし後者だった場合、実の妹をそっちの道に引きずり込んでしまったら、大変なことなので、僕は一旦手を離して、様子を伺うことにした。


「すまんすまん。手が滑ってさ」

「……はぁ……。はぁ……♡」


 弓音は、顔を真っ赤にして、僕を睨みつけてくる。

 なんとなく、汗もかいているような……。


「意味、わかんない……お兄ちゃん、なんなの……?」

「あ、久しぶりにお兄ちゃんって呼んでくれたな」


 そう。反抗期の前までは、お兄ちゃん呼びだったのだ。

 今ではもう、その面影はなく、兄貴になってしまったけど。


「知らない……! 本当に、うっ、な、なんなの……!?」


 胸を抑えながら、息を荒くしている。

 あれ……もしかして、単に疲れさせるだけとか、そういう効果なのかな……。


「あのさ、弓音。良かったら――」

「うぁあっ!」

「え」


 弓音は……大きな声を出してから、部屋に行ってしまった。


 結局……能力の詳細については、わからずじまいだ。

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