頭をナデナデするだけで、どんな女の子でも『メロメロ』にできる能力を手に入れてしまった話。

藤丸新

頭をナデナデするだけで、どんな女の子でも『メロメロ』にできる能力を手に入れてしまった話。

第1章 真面目な風紀委員と、反抗期の妹を堕とす。

頭をナデナデするだけで、メロメロに……?

 僕は変態だ。

 どのくらい変態かと言うと、学校に秘密漫画を持って来てしまうくらいの変態である。

 秘密漫画って、なんだって?

 教えないよそんなの。


 そして、今の僕は――。


「待ちなさぁ~~い!」


 背の高い黒髪美少女に、追いかけられている!

 彼女の名前は長浜凛子ながはまりんこ。僕と同じ高校二年生だ。

 風紀委員の次期委員長候補とも呼ばれている彼女は、規律を重んじる、時代遅れの……じゃなかった。ちょっぴり頭の固い女の子である。

 

「捕まえたわ!」


 捕まりました。

 帰宅部の僕が、運動神経抜群の長浜さんに、追いかけっこで勝てるわけないのだ。

 大事に胸に抱えていた、秘密漫画を回収されてしまった。


「またこんな、エッチッチな本を……! ……許せないわ! 説教してあげる!」

「エッチッチってなんだよ……。……そもそも、僕を追いかけている時の、長浜さんのバインバイン弾むおっぱいの方が、よっぽどエロかったと思うけど?」

「なんですってぇ……!?」


 顔を真っ赤にして怒る長浜さん。

 こんなやり取りをするのは……何回目だろう。


 僕はそのまま、風紀委員室へと連れていかれることになった。


 ◇


「あのさ、長浜さん」

「なによ」

「膝が痛い」

「あなたねぇ……! 反省の態度を見せなさいよ!」

「見せてるじゃん。ほら見てよ。この困り眉。斜め下に垂れさがって……」

「舌を出してちゃ意味ないのよ」

「あ、バレてた?」


 風紀委員室のど真ん中で、僕は正座をさせられている。

 ねぇ。今って令和の時代だよね? これってパワハラとかにならない? 無理?

 

「今日という今日は許さないわ。保護者に連絡させてもらうんだから」

「え? 保護者を頼らないと、説得できないの? ……もう高校生なのに」

「なっ……!?」

「だってそうでしょ? 自分一人の力で問題を解決できないから、大人を頼るんじゃん。え~~~? 次期風紀委員長候補もたかが知れてるなぁ!」

「くっ……! う、嘘よ! 呼ばないわ! 私があなたをけちょんけちょんにしてやる!」


 チョロすぎだろ……。

 そうなんだよ。長浜さんは……勉強ができるのに、頭があんまり回らないんだ。 

 まぁそのギャップが、ちょっぴり可愛かったりするんですけどね。

 あと、おっぱいがデッかい。


「おっぱい……」

「……は?」

「あ、いやごめんごめん。違うんだよ。おっぱいって言っただけで。やましい意味は――」

「やましい意味しかないでしょうが……!」


 長浜さんはため息をついた。

 いやいや。ため息をつきたいのは、僕の方なんですが?

 帰宅部の平穏な日常を乱さないでほしい。


「……稲葉くんは、人の気持ちを考えたことがないの?」

「え?」


 長浜さんが、泣きそうな顔をしている。

 ……なんだ? 泣き落とし作戦か?


「私だって、こんなエッチッチな本を、何度も何度も回収なんてしたくないの……! もうノイローゼになりそうよ! 毎回毎回、生徒指導の先生に渡す時、ニヤニヤされるのよ!? そんな私の気持ち、考えたことある!?」

「いや、その理屈はブーメランだぞ」

「え?」

「えろま……。じゃなかった。秘密漫画を購入したのに、いっつも読む前に没収される僕の気持ちを、長浜さんは考えたことがあるか?」

「……」

「……」

「……ごめんなさい」

「いや、うそうそ。なんでそんな簡単に言い負かされちゃうの」


 弱すぎるにもほどがある……。


 ……まぁ、正直に言うと、申し訳ない気持ちもあるんだよな。

 何度も秘密漫画を没収させてれば、そのうちイヤになって見逃してくれるようになるかなぁ~って期待してたけど、どうやらいつまで経っても頑固に取り締まり続けるみたいだし。

 ここらが潮時かなぁ……。


 ……でも、登校中に秘密漫画を買うルートが、一番ゾクゾクするっていうか……わかります?

 そんなことを考えていると――雨音が聞こえてきた。


「あ……。……あ~あ。雨が降って来ちゃったじゃない。私、傘なんて持って来てないわよ?」

「僕は持ってきたよ。相合傘する? 確か長浜さんって、同じ駅――」

「イヤよ。あなたと二人きりでいるところなんて見られたら、明日から私のあだ名が、変態風紀委員になっちゃうわ」

「ならないと思うけど」


 窓際に近づいて……降り具合を確認する。

 

「うわぁ……結構降ってるなぁ……。……長浜さんが僕の邪魔をしなければ、雨が降る前に駅に辿り着けたのに」

「あなた、どこまでも私のせいにしたいのね……。……本当にムカつく」


 頬を膨らませて、そっぽを向く長浜さん。


 僕は……おもむろに、ドアを開けてやった。


「ちょっと! 何してるのよ! 中が濡れるじゃない!」

「いや、こんなに降ってるの珍しいからさ……。ショーシャ○クの空にごっこでもしようかなぁ~って。……あと、中が濡れるってワード、もう一回だけもらっても良い?」

「ふざけんじゃないわよ!」


 長浜さんが、ドアを閉めに来ようとした、その時――。


 空が――光った。


 落雷が――こっちに向かって来る。


「危ないっ!」


 僕はとっさに、長浜さんをかばった。

 

 そして……落雷はそのまま――僕の体に直撃。


「うぁあぁあぁっ!!!??」

「稲葉くんっ!?」


 したと、思ったんだけど。


 いやいや。そんなことあるわけない。

 近くに落ちただけだ。

 なんか一瞬、ピリッとした気がしたけど、思い違いだと思う。

 そんなことより……。


 ……今の状況はマズい。

 僕は――長浜さんを押し倒してしまっている。

 頭が地面にぶつからないように、手を添えた状態で。


「あ、あっ……。……は、早く、離れなさいよ……!」

「ご、ごめん……」


 さすがの僕も……長浜さんの髪の柔らかさとか、フワッと香った、女の子特有の甘い匂いだとかで、照れてしまって、すぐに離れようとしたんだけど……。


 『頭を撫でなさい』

 

 なぜか――そんな言葉が、脳内で聞こえた。


「稲葉くんっ……なに、してるの……?」

「……?」


 僕は……。

 ……長浜さんの頭を、ナデナデしていた。


「は、ひぃ……♡ な、なにをっ……♡ んふっ♡ おっ……♡」


 長浜さんが、艶めかしい声を出していることも気にせず、夢中で撫でまわした。

 いつの間にか、その小さな頭部を抱きしめつつ、必死で……よしよしと、まるで我が子を愛でるような手つきで、撫で始めてしまっている。


「やめっ♡ いやっ……♡ もうっ……♡ ……だめぇっ!」

「うわっ!」


 長浜さんに突き飛ばされた。


 顔を真っ赤にして……僕を睨みつけている。


「ふぅ……♡ ……ふぅう……。……な、なんなの……!? 本当に……!?」


 いつのまにか、雨は上がっていた。

 

 さっき、脳みそに響いた言葉は……なんだったんだろう。


「もう、良いから……。……出て行きなさい!」

「うん……」


 僕は大人しく、指示に従った。


 ◇ ◇ ◇


 この不思議な出来事をきっかけに……。

 

 ――僕は……女の子の頭をナデナデするだけで、メロメロにできてしまう能力を手に入れたのだけど。


 それに気が付くのは、もう少し先の話みたいです――。

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