第6話 告白と
「翔に聞きたいことがあるんだけど」
私は電話で翔を呼び出した。場所はよく利用している駅前の喫茶店だ。翔が
「聞きたいことって?」
と言ってミルクの入ったコーヒーを熱そうに飲む。翔はブラックが飲めないわけではないが、真理がいるときはブラックで飲んでいる。前に四人でこの店に来た時にもそうしていた。
翔は甘党だ。だからケーキも好きだったりする。そんな彼だから、コーヒーは少し甘いほうが好みだったりする。もしかしたらこのことは、彼女でも知らないことかも知れない。そんなことを思うと彼女に少し勝ったような感覚になる。こんな小さなことでもそう思ってしまうのは相当心が弱っている証拠だ。この辺で自分の考えていることをやめ翔に話しかける。
「真理と付き合ってるって本当?」
と私の聞きたいことが想定外のことだったのか、彼は動揺しているようだ。彼は
「……知ってたんだ」
と何とも言えない表情をしながらそう言った。ということはその噂はどうやら本当らしい。想定していたことだが、翔からそう言われるとかなり心が痛む。
「噂が流れていたのよ。『あの二人は付き合ってるんじゃないか』ってね」
「そうだったのか、知らなかったよ」
彼はまた一口コーヒーを飲む。私も飲むが味がわからない。それっきり私も翔もしゃべらなかった。少しの間沈黙が続いた。先に沈黙を破ったのは翔だった。
「それで、この話をしたかったから俺を呼んだのか?」
といつも元気な翔に似つかわしくない顔で、私に聞いてきた。確かに聞きたいことであった。だがその最悪な結果であったとしても、私は翔に言いたいことがある。
「それもあるけどそれだけじゃないんだ、実はね私、翔のことが好き。だから私を選んでほしい」
「……」
「付き合っている人に言う言葉じゃないのはわかってる。けど言いたかった」
「そうか、でも由美の気持ちには応えられない。すまない」
と彼は申し訳なさそうにそう私に言った。最初から分かっていたことだ。でも私だけが振り回されたのが癪だった。だから少しわがままを聞いてもらう。これくらいしても許してくれるよね。
「翔、ちょっと目をつむって」
「何考えている由美」
「いいから、やらないなら真理の誕生日プレゼントを二人きりで選びに行ったこと真理に言うよ」
と私が言うと彼は、しぶしぶ目を閉じた。私は彼の顔に近づいた。そして彼の顔の前で私は手をたたいた。彼はすごく驚いた顔をしていた。
「キスされると思った?残念だったわね」
「なんだよ、マジでされると思ったぞ」
と彼は慌ててそういった。本当のことを言うと、私はキスではなく頬にキスをしようとしていた。これくらいしてもいいと思ったからだ。でも直前になってやめた。なぜなら真理のことを考えてしまったからだ。私がもう少し、ひどい人間だったら迷わなかっただろう。
「翔の面白い顔も見れて満足した」
「心臓に悪いことすんなよ、ほんと恥ずかしい」
私と翔は笑った。笑った後は少し話をしてその日は解散になった。
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