第8話 無視

「ああいう強気な人が好みだったのか……」

「だから違うって」


 こいつに説明すれば分かってくれるだろうが協力者を見つけてもいいと許可を貰ってないしなぁ。

 助言を求めるべきではなかったか。


「お前って見た目によらずMなんだな」

「違うからな」

「遠慮するなって」


 これ以上言っても意味がなさそうだ。

 まぁいいか。

 逆にそう思われていた方がいいかもしれないしな。


 その時チャイムが鳴ったのでいったん話は中断となった。


 休み時間。

 学食に行くもの、教室で食べるものと分かれており俺は学食にいた。

 もちろん雄二も一緒だ。


「……でどうするんだよ?」


 雄二はさっきからこの調子だ。

 色恋沙汰には目がないようだ。まだ出会って数日で俺も雄二のことはあまり知らなかったがここまでめんどくさい奴だとは……

 

 俺は学食で買ったカレーを食べながら考える。ちなみにカレーを選んだのは安いから、それだけだ。


「どうするって言ってもなぁ、話しかけるにしても話しかけづらくて」


 授業の間の休み時間も河合さんの動きを探っていたが誰とも話さず常に一人だった。そもそも誰も近寄れない空気感だから自ずとそうなってしまっているのかもしれない。


「でも話しかけないことには始まらないだろ?お前イケメンだし行けるって」

「う~ん、まぁ放課後試しに声かけてみるか」

「おっ!頑張れよ」

「じゃあお前に一つ頼みごとがあるんだけど……」


 ある作戦を実行するため俺は雄二に頼みごとをした。



 

 ☆☆





 帰りのホームルームが終わるとクラスは少し騒がしくなる。

 ある者は机の上の荷物をカバンにしまい、またある者はクラスメイトと何か雑談をしている。

 そんな中河合さんはホームルームが終わったと同時に立ち上がった。荷物はホームルーム時に片づけておいたのだろう。俺は雄二に合図を送る。



 さぁここからが俺の作戦、名付けてタイミングよくばったり会っちゃった作戦だ。

 そんなタイミングよく会うなんて出来るか疑問に思うだろうが河合さんの性格を考えれば出来ると踏んだ。


 より具体的に言うと河合さんは休み時間も帰りのホームルームも一番早くこのクラスから抜け出している。このクラスにいたくないからかは知らないが、帰りもクラスメイトと並んで帰るのは嫌なはず。

 Aクラスで一番早く帰るのは北側の前の出入り口から出てそのまま階段を下っていくのが最も早い。一年生は最上階の4階だからだ。学年が上がるごとに階は下がっていく方式だ。

 ……と話が逸れてしまったが要は河合さんは階段に近い北側の出入り口を使うということだ。

 ここで雄二の出番だ。出入り口に一番近い席の奴に話しかけてもらい何気なく入り口を塞いでもらった。


 案の定河合さんは北側の出入り口に行こうとし、一瞬怪訝な顔をした。雄二が出入り口を塞いでいるからだ。

 すると河合さんは仏全的に階段から遠い方の出入り口と向かっていく。



 完璧だ。

 我ながら見事な作戦だと称賛せざるを得ないなこれは。


 後は河合さんが北側の出入り口に差し掛かった瞬間俺が現れる。

 そうなれば声を掛ける雰囲気を作り出せるという訳だ。


 河合さんがちょうど北側の出入り口付近に差し掛かった。

 ――ここだ!


 開けたタイミングは丁度よかった。

河合さんと目が合う。


 落ち着け、冷静にだ。


「あっ、河合さん……だっけ?」


 自然だ。

 何も問題はない、後はうまく会話をつなげて………………あれ?


 見れば河合さんは既に階段の方へ歩き出していた。



 



 


 

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