第5話 条件
「ダメって言わないのね」
蛇のようにじっくりと距離を詰めてくる東郷校長。
「お、俺は……」
蛇に睨まれたカエルのように動けない。
逃げようと思えば逃げることはできる。
だがこれを逃げれば条件はどうなる?
そうここで逃げても残るのは借金、そうなれば俺はこの学校にはいられない。
それだけはそれだけは避けなくなくてはならない。
ならばこの空気をどうにかして条件のを聞く流れにするしかない。
――だが待てよ?それともこれが条件なのか!?
……あり得る。
というかそうとしか考えられないぞ。
なるほど親父が知らないというのは怪しいと思っていたがこれが条件であれば親父が黙っているのも頷ける話だ。
そして東郷校長も全てを知った上で敢えて聞いているのだろう。
それは優しさなのかそれとも俺を試しているのか答えは分からない。
なら俺の覚悟を見せてやろうではないか。
目前となった東郷校長の肩に手をかけしっかりと目線を合わせる。
俺は逃げない。
将来のためならこの三年間程度捨てる覚悟はできている!
「俺は構いませんよ」
「えっ?ちょ、ちょっと……」
先ほどの勢いは何処へ行ったのか、顔を背ける東郷校長。
もしかして押しに弱い……?
――勝機!!
ここは勢いで押すんだ。
これからのことを考えたら主導権くらいは握らせてもらうぞ。
主導権を渡したらさらに大変になるのは目に見えているのだから。
「どうしたんですか誘ってきたのはあなたでしょう?」
距離はもう相手の吐息が聞こえる程度には近い。
あと数秒でキスという場面。
俺はもう止まる気はなかった。
だが流れは突如として終わりを告げた。
「ゴホンッ……その辺にしてください」
この流れを止めたのは俺でも東郷校長でもない。
秘書だった。
「まぁ……こ、この辺かしらね」
そういうや否や東郷校長は俺から離れ元の位置に戻っていった。
正直何が起こったのか分からなかった。
――流石にやりすぎたか?
相手を怒らせてしまっては元も子もない。
「渡会さん落ち着いてください。今説明しますよ」
不安で焦っていた俺に優しい口調で声を掛けてくれた。
秘書は校長に目線を移すとその目線に答えるように校長は頷いた。
「条件を聞きたがっていたわよね、教えてあげるわ」
まるで合格発表のような緊張感を感じる。
次に言われる条件は俺の人生を大きく左右するものだろう。
「あなたには恋愛ゲームをしてもらうわ」
「恋愛ゲーム!?」
場の空気に合わない言葉に驚いて聞き返してしまった。
「そうよ、あなたには私たちが指定した生徒を恋に落としてほしいの。あなた、恋愛ゲームはやったことあるかしら?」
「やったことはないです」
「そうなの、でも簡単よ。ただ相手を攻略して恋に落とでばいい。あなたにはそれを実際にやってもらいたいの」
正直な話、この条件にそこまでの大金を払う価値があるとは思えない。
探せば好き好んでやりそうなやつはいくらでもいるだろう。
つまりその恋愛ゲームで落とさなければいけない生徒は大金を払うだけの価値がある相手。
俺はある一つの答えを導き出した。
「その恋に落とす生徒って何かしらの問題を抱えている……要は問題児じゃないですか?」
少し目を見開いた東郷校長。
「……流石ね。正解よ」
どうやら俺の導き出した答えはおおよそあっているようだ。
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