時間旅行は大名駕籠〔かご〕に乗って【平安】①
駕籠に乗り込んだ、現代に大名駕籠の前方を担ぐ、からくり人形が訊ねてきた。
「で、兄ちゃんはどの時代に行きたいんでぇ」
考えながら答える。
「そうだなぁ……とりあえず」
現代が行き先を告げようとした……その時、いきなり大名駕籠に緋口一葉が頭から乗り込んできた。
「なにこれ? なにこれ? お殿さま? 駕籠の近くいる木製の人形なに?」
狭い空間に一葉は上半身を押し込めてくる。
好奇心いっぱいの一葉に焦る現代。
現代の家は垣根があるだけの敷地なので、後をつけてきた一葉は簡単に、扉が開いていた土蔵に入るコトができた。
「うわっ! 出ろ一葉! 入ってくるな!」
「ねぇ、ねぇ、教えてよ。ナニコレ?」
駕籠の外から、からくり人形の声が聞こえてきた。
「早く行きたい時代を言いな!」
現代に代わって一葉が返答する。
「じゃあ、とりあえず平安時代に」
「あいよ! 行くぜ相棒!」
「おうっ! 兄貴」
一葉の下半身を外に出したまま、大名駕籠が持ち上がる。
からくり人形が、足踏みをすると前方に『時間街道』が出現した。
「エッサ」
「ホイサ」
「エッサ」
「ホイサ」
軽快な掛け声が時間街道に響き、大名駕籠型のタイムマシンはグニャグニャする背景の時間街道を通って、平安時代へと向かい『平安京』の宮中へと到着した。
館の中庭みたいな場所に時間街道から出てきて、駕籠を地面に下ろした〝からくり駕籠かき〟が言った。
「着いたぜ、雅な平安時代に」
最初に駕籠から、後ろ向きで出てきたのは一葉だった。
一葉は、周囲をキョロキョロと見回す。
「ここどこ?」
一葉はスカートの中が、やけにスースーしているコトに気がついた。
スカートの上から股間を触った、一葉の顔が赤らむ。
「パンツ穿いてない……脱げちゃった」
一葉のパンツは時間街道を移動中に勝手に脱げて、時の狭間に浮かんでいた。
一葉に続いて、時間の酔いした現代が駕籠の中から這い出る。
「うげぇ……酔った、なんで平安時代なんかを選んだんだよ」
「なんとなく」
「どうせなら、大平洋戦争の『坊の岬沖海戦』で、戦艦大和が主砲を発射する瞬間を甲板で見たかったのに」
「死ぬよ」
キセルのようなモノをくわえて休憩している、からくり人形の駕籠かきが言った。
「一回、時間街道を通過したからエネルギーをチャージするのに、この時代だったら半月はかかるな……天候が悪かったら一ヶ月だ」
さすが、天才源外が作った〝からくり人形〟エネルギーとかチャージとかの、突っ込みどころ満載の言葉も知っている。
現代がボヤく。
「そんな半月もこんなところにいるなんて」
現代のボヤキに反応するように、一人の平安女性が近くの茂みの中から、頭に葉っぱを乗っけた顔を覗かせて言った。
「さっきからゴチャゴチャうるさいなぁ……創作の邪魔しないでよ、面白い話を思いついたのに忘れちゃったじゃない」
茂みから出てきた、数枚の重ね
「あなたたち何者? 変な格好しているけれど、どこから来たの?」
現代と一葉は、名乗ってから『令和元年』の未来から来たコトを告げた。
「令和? 未来? ふ~ん、そんなコトもあるかもね平安京なら……未来から来たなら、いろいろと面白い話も聞けそうね……一緒に来て」
現代と一葉は、壁が少ない柱だけの
部屋と言っても簡単なモノで仕切られただけの部屋でプライベートはない。
板張りの床の上に、一枚だけの畳に座った平安女性が言った。
「適当な場所に座って」
「適当な場所って言われても」
現代と一葉が板の上に座ると、平安女性が愚痴っぽい口調で言った。
「実はあたし宮中で、物書きやっているんだけれどね……あたしが仕えている、彰子さまが『もっと面白い物語を読ませろ』って催促がうるさいのよ……創作者だからって、そうぽんぽん書けないつぅの」
現代が恐る恐る、物書きを名乗る平安女性に訊ねる。
「あのぅ……失礼ですが、お名前は?」
黒髪の女性がサラッと名乗る。
「あたしの名前?【紫式部】だけれど……それが何か?」
現代の口から、驚きの声がもれる。
「ひえぇぇぇぇ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます