第70話 レイス、ルン、アリア、イレーヌ。四人がいっせいに大爆笑する。


「だってさ! リヴァイアが言い出したんだから!」

 レイスが怒鳴った。そしたら――

「レイスって、落ち着けって」

 ルンがプンスカとするレイスを宥めながら返した。

「俺は、別にさ……」

 なんだか変な汗が額に出始めてくる。

 なんで……俺別に聞いただけなのにと、ルンは疑念を抱く。

「別に、聖都にリヴァイアが入ろうとしないことは、気にはならないって言ってるだろう」

「じゃあさ! ルンはどうしてリヴァイアに詰問するの」

「詰問じゃないぞ……」

 頬を指で触りながら、ルンは自分の誤解を解こうと思った。

「俺はさ、たださ……聖都リヴァイア・レ・クリスタリアという街は、リヴァイアのためにある街だろ? って聞いただけだろ」

「それが、癇に障るんです~リヴァイアにしてみれば」

「だからさ! なんで、レイスが怒るんだ?」

「怒ってないです」




 飛空艇ノーチラスセブンのデッキである――

 故障はリヴァイアのぽちっとなで……なのか? なんとか修理することに成功した。

 したのだけれど……。


 今度は飛空艇仲間たちが不協和音――揉めている。

 ほんと、話題が絶えないこのファンタジー物語である――




「レイスよ! まあ……落ち着こうぞ」

 たまらず隣の木箱に座る聖剣士、リヴァイアがレイスの肩を摩った。

「……リヴァイア。……うん」

 レイスは数回息を吸って吐いて……気持ちを整える。

「リヴァイアさあ……聖都に入りたくないんでしょ」

「……ああ。……できればな、できることならばこの街はスルーしたいんだ……なぁ」

 リヴァイアも気持ちを落ち着かせてから、

「この聖剣――最後の聖剣ホーリーアルティメイトを持参して聖都の中に入っていくとな……」

 リヴァイアが膝の上で両手に大切そうに持つ聖剣――ホーリーアルティメイトを見る。

「行くと?」

 ルンが尋ねる。

 リヴァイアは一瞬ルンの顔を見てから、はあ~と一呼吸して、

「行くとな……。大変なことになってしまうんだぞ」

 首を振って眉間を寄せてしまう。

「大変なことって……どんなことですか?」

 アリアが天然ぶりを発揮、ストライクど真ん中な質問を嫌悪感見え見えのリヴァイアに当ててしまう。すると――

「こら……って、アリア!」

 イレーヌが、アリアの袖をグイグイと引っ張って空気読みなさいよって小声で言うのだった。

「え~? イレーヌさん。これ聞いちゃダメな質問ですか」

「だから、あんたは少しは言葉を慎みなさいって。言い過ぎなのよ……あんたは」

 頭を掻きむしりながら、御前に座る聖剣士リヴァイアに何度も何度も頭を下げて謝罪?


「イレーヌよ! き……気遣いご苦労だ」

 リヴァイアも座ったままではあったが今にも涙目になりそうなイレーヌに頭を下げる。

 しかし――


「リヴァイアさん? もしかして……その両手に持っている最後の聖剣ホーリーアルティメイトが問題なのですか」

 天然アリアが核心的な質問を、ぶっちゃけてしまったのだった。

 それに対して、リヴァイアはというと……、

「……ま、まあ。約束したからな。聖都のお偉いさん……と……なぁ」

 リヴァイアは俯いてから、額を青ざめさせた……。


 隣に座っているレイス。

 その横顔をしばらく見入っていてから……。

「リヴァイア? 何を約束したんですか?」

 率直に尋ねてみた。


「……」


 リヴァイアが沈黙する。

 しかし、すぐに口を少し開いて――

「わ……我が1000年前に聖剣士になり。なってから我はグルガガム大陸の最東端のこの地に――正確には洞窟を根城にして生きてきた。そんな……我に、どこからか噂が広まったのか聖剣士が住んでいる、近くに住んでいるという噂がここで広まったんだ。聖都とは今でこそ冠をもらっているのだけれど……もともとは、ここは小さな田舎町だったんだ」

 少し早口にリヴァイアは、自分が聖都の街に行きたくない理由を喋ったのだった。

「そ……そんなことがあったんだ。そ……それで?」

 うんうんと納得しながら、レイスが話の続きを聞こうとする。

「それでな……」

 声に力が入らないリヴァイア。

「どこからか、風の便りで知ったのだろうな。こんな……田舎町だったのに……」

「何があったんですか?」

 アリアが前のめりになってリヴァイアに聞いてきた。

「こら! アリアってあんたの態度、聖剣士さまに失礼の極みだってからさ」

 後ろから身を起そうと羽交い絞めにしているのは……イレーヌである。


「か……かまわん。我の口から言うから」

 リヴァイアが手の平をイレーヌに向けて無礼講。


 ふう……


 とは見せてくれたリヴァイア、その心痛がいかんばかりか?

 しぶしぶと……内心にある思い出したくもない聖都リヴァイア・レ・クリスタリアの成り立ちを飛空艇仲間4人に語った。

「……この聖都という場所は、1000年前にはたびたびオメガオーディンの襲撃を受けてきた場所でな……。我がこの先にある洞窟を根城にしていたのと同様に、ここいら辺にはマナのエネルギーが集中しているんだ。そのエネルギーをオメガオーディンも手に入れようと思ったんだろうな」

「マナって……、魔法を使うときに消費する?」

 ルンが聞きなれない単語――マナの意味を思い出そうとする。

 飛空艇乗りのルンには縁遠い魔法である。

(飛空艇仲間のアリアは大魔導士ドガウネンから魔法能力をはく奪された、元魔法使い)


「ああマナだぞ。エネルギーそのもの……これがなければ魔法使いも魔法をぶっ放せないエネルギーの流れ、そのもっとも力強い場所が……ここ聖都――昔の田舎町だった。グルガガム大陸の最東端のこの地はな……昔から外海からの良質なエネルギーが飛来してくるんだったんだ。我もそれを知って洞窟に……。あらゆる魔物がこの田舎町を襲ってきて、それを我が退治し続けていた。数百年も――」

 ……と、早口に事情を説明しようとするリヴァイア。

 よっぽど、思い出したくないのだろう。

「数百年ですか!」

 レイス、ここも率直に驚く。

「ああ、あれから数百年を経て聖都になり……。ならなくていいのに、聖都としてなぜか我を神様として進行し始めてしまったんだ。我はな……聖剣士であって神ではないのだから……当然、聖都は……その苦手になったんだ」


「でも、聖剣士ってある意味神様っぽくないですか?」

「こら、あんたはまた聖剣士さまに余計なことを言って」

 アリアの頬をつねるイレーヌ。

 たまらず、もうよしなさいってと言ってレイスが2人を仲裁した。


「……我はな、もう我のことを神と崇めるのは恥ずかしいから! と言っても、彼ら信徒は、『いいえ、マナのエネルギーの枯渇を魔族から守護してくれたあなたさまを、どうして神と思ってはいけないのでしょうか』と、逆に聞き返される始末で……だから」

「だから? もしかして、聖剣エクスカリバーでやっつけたのか?」

 思わず、ルンが物騒な発言をすると、


「否だぞ――我は、言ったんだ」


 リヴァイアは首を振って否定した。

「ルンって! そんなわけないでしょ」

 レイスがルンに舌を出す。

「で……。リヴァイア、何をですか?」

「……我には使命がるんだ。それはこのエクスカリバーを真の聖剣にするために、大海獣リヴァイアサンを退治しなくてはならない……と」

「退治ですか? 聖剣士さま」

 イレーヌ。

「……ああ、そう言った」

 頷くリヴァイア。


「それって、ギルガメッシュから奪い返したこのホーリーアルティメイトの魂……のこと?」

 レイスは木組みの街カズースの宿屋で、リヴァイアから教えてくれた話を思い出した。

 自分がリヴァイアサンから毒気を浴びたときに、エクスカリバーの魂を奪われたこと、エクスカリバーは元の名をホーリーアルティメイトだということを、その奪われた魂をギルガメッシュが奪ったことをである。

(正確には、リヴァイアサンがギルガメッシュに魂を譲ったである)

「そうだ……」

 リヴァイアが頷く。

「……それを奪い返した今、つまり最後の聖剣ホーリーアルティメイトとして、今まさにここに聖剣士が所持しているときに聖都に凱旋してしまうとな……」

 大門を見つめるリヴァイアが、

 またひとつ……嘆息をつく。

「本当の神扱いにされてしまうんだ……ぞ」

 ああ……嫌だ。

 という表情を隠そうともしない聖剣士リヴァイアだった。

 すると――



 ははっ あははっ!



 レイス、

 ルン、

 アリア、

 イレーヌ。


 四人がいっせいに大爆笑する。



「み……みんな? お……おかしいか??」

 リヴァイアが飛空艇仲間の意外な反応についていけない。

「あははっ。だってさリヴァイア――」

 レイス。

「リヴァイアは聖剣士じゃないか!」

 ルン。

「そうですよ……。伝説の女騎士のリヴァイアさんじゃないですか」

 アリア。

「聖剣士さまも、こんな茶目っ気が……おありなんですね」

 イレーヌ。


 飛空艇のデッキで、みんなが大爆笑だ。



「わ、笑うな……ぞ!!」



 リヴァイアは……聖剣士リヴァイアは決して笑い話をしたわけではない。

 自分にとっては至極真剣な告白をしたつもりだ。

 けれど、飛空艇仲間に大爆笑されたもんだから、彼女はたまらず頭を抱えてしまう……。


 これ、聖剣士最大の悩み?





 続く


 この物語はフィクションです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る