第69話 リヴァイアの思い出―― ……リヴァイア・レ・クリスタリア、もういいよ。


「あは……あはは……。あはは……は……」

 リヴァイアは心の中で、修道士見習いが私欲で本を選んで、その本を孤児達に読み聞かせていることをなんとか悟られまいと、空元気に笑って誤魔化そうとする。

 すると、

「リヴァイア・レ・クリスタリア――」

「な……なに? 今度は誰だ??」

 ちょんちょんと……。

 背中をつつくのは、5歳の男の子――バムだった。

「バ……バム君? どうして私の名前をフルネームで呼ぶのかな? リヴァイアって呼んでね」

 優しくバムの頭をなでながら、リヴァイアは未だ空元気に表情を引きつらせている。

「……うん、わかった。リヴァイア」

 バムは素直に大きく頷いた。


「……でもさ。リヴァイア・レ・クリスタリア!」

 しかし、5歳の男の子のバムにとってはリヴァイアをフルネームで呼ぶほうが嬉のか?

 両手でリヴァイアのスカートをグイグイ引っ張りながら、なぜか笑っている。

「だから……フルネームで……って。あの、何かな?」

「その本ってね? 『究極魔法レイスマ』でしょ? ボクはもう何度もリヴァイアに読んでもらった本だよ」

 

「……そ……そうだっけ?」


 とぼけるリヴァイア……。

 5歳の男の子にも修道士見習いとしてのプライドで意地を張ってしまうリヴァイア。

 大人げないぞ……リヴァイア・レ・クリスタリアよ。

「……そう……だったかなあ? リヴァイアは、違うと思うけれど……なぁ」

 ごめん、バム君。

 修道士見習いとして、修道士になるためには、どうしても私欲がバレちゃ……もとい、献身的に孤児達を世話している……感をアピールしなくては……修道士には……なれんのだから。

 でも、リヴァイアと言ってくれたことには感謝している……よ。


 それこそ、私利私欲じゃね?




       *




「あ~! リヴァイアって、もしかして、知っててその本を読んでいるんだ!」

 フレカがリヴァイアの顔面向けて、指を差す。

「人に指差すのは……ダメだからね」

 その指をリヴァイアが思わず両手で握ろうとした。

 そしたら、自分が持っていた本を胸の前で披露してしまう。

「そうなのですか……リヴァイア? この究極魔法レイスマの本を自分が読みたいから……」

 今度はクアルがリヴァイアを見上げて、驚嘆してしまう。

「ク……アルさん?」

「……」

 絶句するクアル――


 まるで、修道士を目指そうと日々修行に励んでいる大人のくせに……最低だ。

 このリヴァイアって、ああ……最低。


「フレカちゃん……? それに、クアルさん……も」

 や……やめて……その表情を。

 やっぱり大人って、子供のことをこんなにも甘く見て接しているんだ……という疑心暗鬼なその表情を。

 やめて……ね。

 それが、聖サクランボの孤児が見せる大人への失望の表情なんて、尚更心苦しいんだよ。


「リヴァイア……ボクね『究極魔法レイスマ』飽きちゃったよ」

「あ……飽きちゃったって……バム君?」

 君も5歳で、どうして……そんな難しい言葉を知っているんだ?

 どこで、覚えたのかな?


「あ……飽きたらだめだって!」


 思わずリヴァイアは声を荒げる。それから、究極魔法レイスマの本を慌ててめくって。

「こ……こんな面白い預言書なんて、滅多にないんだからさ!」

 捲るスピードが速くなっていく。

「絶対にさ、お面白いからさ! き……今日も読みましょうね?」

「え~! いや~だ!! 他の本を読み聞かせてよ、リヴァイア」

 フレカが全身で駄々を捏ね出す。

「私も、究極魔法レイスマじゃなく別の本がいいです……。リヴァイア……」

 クアルもなんだか乗り気ではない様子。


「……リヴァイア・レ・クリスタリア、もういいよ。ボクは」

 バムははっきりと断言?



「もういいよって……。バム君? そ……それはね、そゆことはね、絶対に言っちゃダメだって!!」



 急ぎリヴァイアが、パラパラと究極魔法レイスマの本を捲る――

「ほ……ほら! ここなんかさ、とっても面白いんだから……ほら! 『オードール100年戦争』だよ! ここって主人公――リヴァイアが大帝城サロニアム・キャピタルを世界の首都にした決定的な戦争なんだから。リヴァイアがやったんだよ! 成功したんだ……からさ」

 早口になるリヴァイア――

 少し息切れしてきた。

「面白いってさ、成功ってさ――リヴァイアが楽しんでいるだけだよね?」

「私もそう思います。リヴァイアは自分を預言書の主人公に重ねているだけだと思います」

「ボクも思う。リヴァイアはわがままだよね……」

 三人いっせいにリヴァイアの顔を見つめて頷いた。



「……おもしろ……いんだから。だけだよ……って。重ねている。……わがままって」



 聖サクランボの孤児達、恐るべしだよ……。

 この子供達を、どうやって寝かせつけようか?

 子守歌の代わりだったんだけれど、なんか逆に目覚めてしまった?


「あ……あははっ。あは……は……ってね」


 もう、笑うしかない……。

 まだまだ未熟な、修道士見習いリヴァイア・レ・クリスタリアだった。






 そう! 笑うしかないのだ。


 オードール100年戦争の物語は滑稽?

 預言書『究極魔法レイスマ』にも、しっかりと書き残されている珍道中?

 リヴァイアが第4騎士団長から聖剣士となり、

 サロニアム王の命により、はじめて遠征に行った物語。




 聖剣士リヴァイア・レ・クリスタリアになり、777日後の物語である――





 続く


 この物語は、フィクションです。

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