第九章 リヴァイアの旅、たびたび。

第68話 リヴァイアの思い出―― うっそだ! 図星じゃん?(プロローグ)


「さあ! リヴァイアがみんなに本を読み聞かせますよ~」


 聖サクランボの修道士見習い――リヴァイアがみんなを手招きする。

「ほら! フレカちゃん、クアルさん。バム君! リヴァイアのとこにおいで~」

 なんだかとっても嬉しそうに微笑むリヴァイアである。

 何を隠そう! ……別に隠す必要もないけれど、聖剣士リヴァイアの前職はサロニアム第4騎士団長であり、その前が修道士見習いだ。


 新しい物語は、1000年前の修道士見習いリヴァイアから始まるのだ――


「……」

 フレカ――7歳の女の子は、そんなリヴァイアの表情を無言でじ~と見つめている。

「……あ、あの」

 リヴァイアの頬に変な汗が早速さっそく流れる。

「あの? フレカちゃん……どうしたのかな?」

「……って、リヴァイア!」

 両手を腰に当てるフレカ。

「な……なんでしょう」

 たじたじになるリヴァイア。

 対して、負けん気の強い7歳のフレカ。

 なんだかリヴァイアに対して疑心暗鬼の様子で……。

「その本ってさ~」

 両目を細めるフレカ。

「こ……この本が? なに??」

 リヴァイアは目をパチパチと瞬きを数回すると、自分の左手に持つ本を確認する。

「あたし、覚えてるもん」

「……あの、フレカちゃん? 何を覚えてる……かな」

「その本ってさ! もう何度も何度も読んだはずだよね?」

 腰に当てている両手から、フレカは腕を組みなおす。


「そ……そうだったっけ? そ……そっかな……って」


 白々しくリヴァイアが……顔を聖サクランボの窓の向こうに向けてとぼけてしまった。

「リヴァイアって! あなた……それって確信犯でしょ?」

 ふん! ……と、したり顔をつくるフレカ。

「か……確信犯?? かくしんはんってどこで覚えたの?」

 そんな難しい言葉を……、焦るリヴァイアだ。


 次に、

「あ……あのう」

 リヴァイアとフレカがにらめっこしている最中さなかに、控えめに歩みを進めて近寄っていたのは、

「リヴァイア……。私も……その本を何度も読み聞かせてくれたことを……覚えていますよ」

 9歳の女の子、クアルである。

「ク……クアルさんも……。そ……そゆこと言うの? どして……」

「だって……その」

 もじもじと両手の人差し指をツンツンと、突きながらクアル。

「私……。その本の文面を……ほとんど記憶しています」

 と、小声で言うと顔を少し赤らめてしまうのだった。

「ぶ……ぶんめん?」

 あなたも難しい言葉を知っているんだ……。

 頭が……いいねえ。

 聖サクランボの孤児たちは、発育がよろしいこと……。

 少し驚きと感心する修道士見習いのリヴァイアである。

「そ……そうだったけ? ……かなぁ」

 しかし、譲れない……。

 リヴァイアはクアルに対しても、とぼけることに徹するのだった。


「リヴァイアって、あのさ~」

 フレカがリヴァイアの背中をチョンチョンと突いてくる。

「な……何かな? フレカちゃん?」

 慌てて振り返るリヴァイア。

 というより、今度はどんなことを言われるのか……少し怖かった。

「……ぶっちゃけさ」


「ぶ……ぶっちゃ? なんでしょう??」

 身構える修道士見習いのリヴァイア。

 修道士の見習いたる者、護身の術は心得ている……。

 それが例え、あなどれない5歳の女の子であったとしても、変わることはない。


 ――ところで、何をそんなに恐れている?


「ぶっちゃけ……その本の主人公が気に入っているから、読み聞かせようとしてるだけじゃんでしょ?」

 したり顔のフレカは継続中である。

「……主人公が? そ……そんなことは……ないよ」

 慌てて左手に所持している本を背中に隠したリヴァイア。

 今度は背中に変な汗が滲んでくる。


「うっそだ! 図星じゃん?」


「ずぼしって……よく難しい言葉を……知ってるよね」

 すごい……すごい……。

 リヴァイアはフレカに笑顔を見せながら……、作り笑顔を見せて褒める作戦を実行する。

 侮れないフレカだ――

 というより、勘の鋭い5歳の孤児。


 のちの聖剣士リヴァイアの戦いの精神のような剣舞の姿勢は、もしかしたら、この聖サクランボで自然に身についたのかもしれない……。




       *




「わ……私も」


「今度は何かな? クアルさん」

 リヴァイアが急ぎ向きを反転すると、クアルを見た。

「私も……その」

「その?」

 もじもじしたままのクアル。

 控えめな性格の9歳の女の子、それでも聖サクランボの年長者としてお姉さんとしての心持はいつも持っている。

 修道士見習いのリヴァイアから見ても、園児達の世話を積極的に引き受けてくれるクアルの存在には一目置かざるをえない。

 

「その……私も、フレカと同意見ですよ」

「ど……どういけんって」


 やっぱ、聖サクランボの孤児たちは……あなどれない。

 難しい言葉をどこで覚えたんだろう? 知っているんだろう?

 背中に隠している本を握る手に、力が入る。

「私、……リヴァイアは、たぶん……」

「た……たぶん?」

「……その、自分で読みたいから、その本をいつも選んでいるのだと思います」

 チラッと上目にリヴァイアを確認するクアル。すぐに視線を床へ向けて畏まってしまうのだった。

「クアルさん……そんなこと……は、ないってねぇ」

 さらに変な汗が、今度は両膝に滲んできた。

「そんなこと……は……な……いから……」

 もしかして……すでにバレてる?

 言えない。


 図星です……


 これを認めてしまうと、修道士見習いとして失格の烙印を押されてしまうだろうな……。



 そういえば『古代魔法の図書館』のエリア司書長が教えてくれたっけ?

『あなた、これ預言書ですよ?』

『ええ、知ってます。エリア司書長――』

『……呆れた。あなた預言書を子供達に読み聞かせる気なの?』

『はいな!』


『リヴァイア――あなた、この預言書の主人公の名前を……名前に興味があったから読んでいたんでしょ?』

『……バレちゃいました?』

『……まったく。図星だこと…………』


 エリア司書長は、クスクスと笑ったっけ?


『この預言書の主人公の名前――私と同じ『リヴァイア』なんですもの!』



 ……だって、本の読み聞かせの時間って、本当に退屈なんだもん。

 どーせ子供達って、本の内容なんて全然聞いていないしさ……。

 ただ、子供達を寝かせつけるための、子守歌のようなものだからさ……。


 だから、せめて……自分が好む本をチョイスしているって。


 言えない。すでにバレてるのかな?






 続く


 この物語は、フィクションです。

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