第66話 我は聖剣士なり!! 霊騎刃術聖剣技――ホーリークロス・リペンタンス


「よく聞け! 我は聖剣士なり!!」

 リヴァイアが渾身を込めて叫ぶ!

 その最中も、バイオクエイクのオレンジ色の光の線は、リヴァイア目掛けて、それも顔面目掛けて上ってきていた。

 視界を狭めるためか?

 エクスカリバーを思いのまま振らせないようにするためなのか?

「聖剣士リヴァイアにかすってでも、私の魔法でダメージを与えられれば、私は本望です! 聖剣士リヴァイアに手傷を負わせたという噂は、一気に世界中へ――」

 天に飛ぶリヴァイアに向けて、ギルガメッシュも血気に叫んだ!


「ならる。させるかっ……て」


 手傷を負うことも、許してはいけない。

 聖剣士としてのプライドだ――


「だから、我は負けないぞ!」


 左手に握っていたエクスカリバーを、リヴァイアは胸元に寄せる。

 そして……、

 そんなことできるのか?


 否!


 聖剣士は空をも飛べるのだから……できてしまうのだ。

 空中に浮かべたエクスカリバーに両足を乗せた。

 すぐに両足に思いっきり力を込める。

 反動だ――


 その反動、

 一気にリヴァイアが、まるで走り高跳びの選手のような背面飛びの動作に入った。



 ギュドゥーーーン



「クッ……」


 だが、わずかに間に合わない。

 垂直に上ってくるオレンジ色の光は、そのほとんどを交わすことに成功した。

 したのだけれど……、わずかなささくれた閃光の一筋が、リヴァイアの顔面――右額みぎひたいスレスレをかすめ飛んでくる。

 リヴァイアの右目に映るオレンジ色の光――バイオクエイクのそれが、勢いをつけてスピードを上げる。

 ぐんぐんと……向かってくるのが明らかだった。

「間に合わん……のか? 我が……」



 ギュドゥーーーン



「クッ!!」

 聖剣士リヴァイアが右額みぎひたいに傷を受けてしまった――

「……ああ、腹立たしい! 我の不覚が!」

 思わず愚痴をこぼす。

 そのまま一気に……まるで鯉の滝登りした後の鯉の如く、地上へと落ちていくのだった。


(これで満足だろうな…… ギルガメッシュは……)


 悔しくも、その通りのようだ。

「よっしゃ! クリティカル! 私って、してやったりだ! あの伝説の聖剣士さまに重症の傷を与えてやったぞん!」

 ギルガメッシュが満面に嗤っている。笑顔になって……いた。

「……」

 落下しながら左目を大きく見開いて、彼の悪党ずらの表情を確認するリヴァイアである。



 こいつは……アホか?


 なぜ、はしゃいでる?


 敵を殺せない戦闘をする時点で、負け戦だろう。



「ギルガメッシュ! お前はどうしようもない……バカか? なにが……してやったりだ!」

 落下中で一回転してから、地面に無事に両足で着地したリヴァイア。

 眉間を寄せ、すぐにギルガメッシュを睨みつけた。

「おい! 聖剣士リヴァイアを……なめるなよ」


 ヴォン…… ヴォン……


 遅れて宙に舞っていたエクスカリバーが、弧を描いて重力に従い落ちてくる。


 ガチッ!


 それを、左手でキャッチ――ナイスキャッチだ。

(しかも、視線で追うことなく手に持ったぞ……)


「死ね――」


 リヴァイアが地面を蹴り走った!

 向かうはギルガメッシュの首――斬首するためだ。

 絶対に許さん――

 聖剣士に小賢しい作戦で戦おうなんて、

 正々堂々と戦って、

 死んでも世界中から噂にされることで、

 それを……

 冥途の土産にするのではなかったのか?

 


「お前……全然! 全然、違う話になっているではないか!!」



 許さん――

 絶対に――



『あ~あ。やっぱ、結論は殺すなのね』


 ああ、ダークリヴァイア。

 その通り、殺すんだ。

 我は女騎士だから……だから殺す。


『ま、しょうがないか……。思えば聖剣士っていう“稼業”も、阿漕あこぎなネーミングセンスよねぇ』


 ああ、そうだな……聖剣士リヴァイア。



「魔賊奴ギルガメッシュよ!」

 駆け足でギルガメッシュに向かいながら、聖剣士リヴァイアが大きな声で叫んだ!

「我の必殺技を、お前に……愚かなお前にくれてやるぞ!!」

 両手で強く握るエクスカリバーを、勢い大きく振りかぶった。

 振りかぶってから――


 当ラノベ、聖剣士リヴァイア物語で初披露!

 リヴァイア・レ・クリスタリアが、必殺技を披露する!!




 我は聖者!

 我は聖剣士リヴァイアなり!

 我はサロニアム第4騎士団長のころから、

 ただ、我の敵を倒すことのみに生かされてきた!


 唯、命を奪う!

 我、奪うなり!


 魔賊奴まぞくどギルガメッシュよ、愚かなり!

 愚かなギルガメッシュよ、答えよ。


 冥途の土産は何がいい?

 言うな……、もう手遅れだ。


 我は騎士団の十字!

 我は聖剣士の結束の十字なり!

 青き大海嘯だいかいしょうを、白き十字で分断する。


 ……さらばだ、ギルガメッシュ。



 我は聖剣士なり!! 霊騎刃術聖剣技――ホーリークロス・リペンタンス




 体全体の体重を使って、左手だけで持つエクスカリバーにエネルギーを注ぐ。

 死神が大釜を大きく振りかぶって、その勢いで目の前の人間の首を掻っ切るように――

 エクスカリバーが切り裂いた空気のき目が、白く残像する。

 白い光を残像させたまま魔賊奴ギルガメッシュ目掛けて、猛烈なスピードで聖剣士リヴァイアがエクスカリバーを、大きく、素早く、十字に振り裁った!

 


 霊騎刃術聖剣技

(れいきばじゅつせいけんぎ)


 ホーリークロス・リペンタンス

(Holy cross repentance――聖なる十字架の後悔)


 聖剣士リヴァイアの必殺技である!

 青き大海嘯だいかいしょう、白き十字というのはサロニアム騎士団の団旗のことである。

 青地に白色の十字を均等に重ねる団旗は、別名『結束の十字』と呼ばれている。




       *




 ――気がつくと、大雨は止んでいた。


 終局魔法メテオレミーラを天へと弾き、バイオクエイクも天へ真っすぐに上って行ったためだろうか?

 リヴァイアとギルガメッシュが対峙するその上空だけ……雲が消えていた。

 いや、その上空以外の黒かった雲も、うすい灰色の雲に変わっていた。

 水分が蒸発してしまったのだろう……。


「……あの? どうして……殺さないのですか? 聖剣士リヴァイアさま」


 首の皮一枚というに相応しい?

 リヴァイアはエクスカリバーを、ギルガメッシュ首スレスレでその勢いを止めたのだった……。

「あの……どうしてでしょう?」

 ギルガメッシュは両膝を地面につける……。

 当然、自分は首を掻っ切られると最期を覚悟していた分、なんだか力抜けした様子だ。


「はあ……。はあ……」

 リヴァイアは、肩で大きく呼吸を繰り返す。

「我はな……聖剣士リヴァイアではあるが、正確には今は『元聖剣士』なのだ。このエクスカリバーも聖剣ではなくなった。今は……レイスとルン達が所持している『ブラッドソード』が聖剣たらしめている」

「……はあ? それが」

「ギルガメッシュよ……お前の相手をしている我は……もはやお前が思う聖剣士リヴァイアではないということだ」

「……あ。……ああ! そゆことですか……。つまり、引退されたから私を殺さないと」

「そうだ」

 リヴァイアが、コクりと頷いた。


 ……だが、それは表向きな理由だった。

 裏、本当の理由はというと、ダークリヴァイアの存在だった。

 ダークリヴァイアは、聖剣士を捨てて『女騎士』として、殺せと頻繁に自分に語っていた。

 

 それは楽な考え方だろうと、リヴァイアは考えたのだ――


 聖剣士ではない。

 元聖剣士であるから、聖剣士であってそうではない。

 そうではないのだけれど……元々は女騎士である。


 女騎士リヴァイアは、これからも続いていく――


 パラディンスピリット……騎士道は……聖者の道は、命を奪うだけの道であってはいけない。

 聖者の道を、人を殺す理由にしていいはずはない。そう思ったのだった。



「我の敵は、今はオメガオーディンのみなのだ……」

 リヴァイアはギルガメッシュの首に突き立てていたエクスカリバーを、足元へと引っ込める。

「さあ、返してもらおうか……。ホーリーアルティメイトの魂を。我がホーリーアルティメイト――エクスカリバーもこれで真の……先祖代々の姿に戻れよう」

 ダークリヴァイアよ――

 お前とも、これでさようならだ。

 我の心の闇から、ダークリヴァイアを追放する!

 我は、これからは……もう自らの怒りで殺戮することはない。

 冷静に、どこまでも冷静に。

 ラスボスのオメガオーディンを倒すことにのみ、我は全集中することにした。


 ダークリヴァイア、さようならだ――



「あの……それで」

 ギルガメッシュがリヴァイアの顔を見上げる。

 彼の顔を見下ろしながらリヴァイアは、ムスッとした嫌悪感をあからさまに見せている。

「死なない自分はどうなるか……のですか? 当然、しょっぴくぞ――」

「しょっぴく……クリスタミディア牢獄塔にですか?」

「否! 違う……」

「では……城塞都市グルガガムの牢屋……」

「それも違う! 大帝城サロニアム・キャピタルにしょっぴく」


「サロニアムにですか?」


「……ああ、サロニアムの地下深く。ドワーフの寝床――かつてのオメガオーディンの卵の後の場所だ。そこに地下牢があるという。お前は残された命を、その地下牢で生きろ」

 見下げていた顔を上げるリヴァイア。

 そのままエクスカリバーを腰のさやへ収める。

「ドワーフ? オメガオーディン……? 地下牢?」

 きょとんと見上げたままのギルガメッシュ。

 いまいち理解が追いつかない……。

「もう会うことはないということだ。最後に言い残すことはないか。魔賊奴ギルガメッシュ……、終身囚しゅうしんしゅうギルガメッシュよ」

「……聖剣士リヴァイアさま」

 ギルガメッシュは、きょとんとした表情から少しだけ頬を緩めて……こう言い残すのだった。


「また、会いましょう♡」


「……まったく。懲りない魔賊奴よ。その性格、死んでも治らんと思ったから、生かしてやるんだぞ」

 口角を上げて皮肉ったリヴァイアだった。

 しかし――



 もっと戦おう。死ぬでないぞ……ギルガメッシュよ。



 リヴァイアの本音だった。

 久々に真剣に剣舞できたことを、実は心の中でひっそりと笑っていたのだ。

 聖者として……悪が栄えたためしなしを、


 聖剣士として――



 これが、われの生きる道なのだ。





 続く


 この物語は、フィクションです。

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