第65話 逃げないのですか……だと?


「リヴァイアさま? あの、逃げないのですか!」



 まさか、このまま自分が放った黒魔法……その究極形態、終局魔法メテオレミーラがこの世界最強の、だけじゃない……1000年間無敵の聖剣士リヴァイアに命中する?

 そんなことがあって……いいのかな?

 自分で魔法攻撃しておいて、それも終局魔法をぶっ放しておいて、ギルガメッシュは怖気づいてしまう。

 元大盗賊らしくない……居直り強盗の逆バージョン。


 しかし……、


 カチーン ブチッ!


「逃げないのですか……だと?」

 相変わらずギルガメッシュのものの言い様がかんに障る。

 だから、リヴァイアの眉間が引きつった。要するに……


 キレたのである……  ( `―´)ノ


「受け止めると言ったではないか! 我が身を反らせば、後ろのダンテマ村に甚大な被害が出てしまうだろうが! 我が言ったではないか!」

 すかさず!

 リヴァイアはギルガメッシュに向けているエクスカリバーの剣先を、今度は平地ひらじ――剣の平たい部分を向け直した。

 平地に映るは赤黒い終局魔法メテオレミーラの光の球。数歩先まで襲ってきている攻撃魔法、その光が反射する。

「受け止める……。それだけだ……」

 歯を食いしばるリヴァイア。

 自分の計算では、たとえ終局魔法であっても……このエクスカリバーならば……

 大丈夫なはずだ……。

 威力は、もしかしたら……想像を絶しているかもしれないが……

 今は、受け止めるしかコマンドが無い……


 頼む…… 頼んだぞ……


 すまぬ。


 リヴァイアが大きく口を開けた!

「元聖剣エクスカリバーよ! 聖剣エクスカリバーのころを思い出せ! 悪しき攻撃……終局魔法からダンテマ村のたみを守ってくれないか! 否! 聖剣エクスカリバーよ! 今はただのエクスカリバーよ。それでも元聖剣の地位を思い出せ! 思い出して――」



「我と一緒に、魔賊奴ギルガメッシュを殺そうぞ!! だから、頼んだ!!」

 


 リヴァイアは聖剣エクスカリバーで両足を地面に踏ん張って、耐える!

 なんとか耐える!

 耐えるしかないのだ。


 相手は終局魔法だ。


 かつてオードールに、砦灯台を造らせるきっかけとなった黒魔法の究極形態だ。

 たぶんいける。

 いや、いってもらわなければ元聖剣の名折れになってしまう。

 とにかく、やるしかない。


 覚悟を決めろ……迷う聖剣士リヴァイア。そう自分ぞ!!



 キッ ギギッ キーン!



 まるで、光の屈折だ――

 クリスタルに光が差し込んだときのプリズムだ――

 衝撃でリヴァイアの両足が後ろへと引きずられていくのがわかる。地面に足がずずっと減り込んでいく。


 それでも、エクスカリバーは耐えたのだった。


 終局魔法メテオレミーラの赤黒い光は、エクスカリバーの平地に当たると角度を変える。

 そのまま黒い雲へと真っ直ぐに線を描き飛んで行った。

 消えていった……。

 ダンテマ村の壊滅は免れる結果となった。


 聖剣士リヴァイアに軍配が上がった。



「そこまでして、夫の村を守りたいのですか? そこまでも亡き夫を愛して……」

 ギルガメッシュが確認する。

 小賢しいというか……厚かましいストーカーの言葉攻めのようにだった。

「お前、バカか?? 村人を守るためだろ!」

 すかさず、リヴァイアが反論する。



『さんざん殺しに殺しまくってきた、女騎士のくせに。あ~あ……。ちゃんちゃらおかしいってね』


 ダークリヴァイアよ。

 お前も黙ってろ。



 頭の中と外から、同時に自分をまくし立ててくる――

 その葛藤を振り払う勢いでリヴァイアが叫んだ。

「……おい! ギルガメッシュよ! お前は我と戦いたいがためにダンテマ村を選んだのではないのか? 我が夫の名がついたこの村で我と対峙することで、我に対する歪んだ恋愛感情を満たそうとしていたのではないか?」

 左手に持つエクスカリバーを、真っすぐギルガメッシュの鼻へと向けて言い放ってやった。

「……歪んだ恋愛感情……ですか? 別に歪んでなんかはいないかと」

「否! 歪み過ぎている。盗人風情の魔法使いの考えそうなことだ。お前の相手は我であって、村人ではないはずだ……」

「御名答……その通りですけれど。それが?」

「それがだと……? 我が終局魔法メテオレミーラをエクスカリバーで受け止めていなければ、真っすぐ赤黒い光は村の中心へと進んで、村人は一瞬にして蒸発してしまうではないか! お前の頭でも、それくらいの良識はあるだろう」


「……良識。はい、理解しています」

「り……理解して……。……なんだ?」


 おかしい――


「…………何か違う」


 リヴァイアの脳裏には、なんとも言い難い違和感が疼いたのだった。


 ……素直すぎる。

 この目の前に立つギルガメッシュ。

 大盗賊から、やがて魔賊奴という蔑称までもらったギルガメッシュ。

 ホーリーアルティメイトの魂を盗んだとは聞いていたけれど、実情は大海獣リヴァイアサンからもらっただけだった。クリスタミディア牢獄塔から脱獄したとは聞いていたけれど、実情はダークバハムートの力を使っての脱出だった。


 何から何まで種明かしすれば、自分の力を真正面で向かっていこうとはしない。

 まさに大盗賊――小賢しい性格そのものだな。


「リヴァイアさま?」

 傾げていた首を、今度は反対側へと傾げなおすギルガメッシュが聞く。

「……」

 けれど、リヴァイアは黙ったままで思考を続けた。


 ――ダークバハムートの力で、終局魔法メテオレミーラを発動したことはいいとして。

 それを、我に向けて堂々と真正面から魔法を放ってきたギルガメッシュ……。



 やけに素直すぎる……



 大体、終局魔法メテオレミーラというのは、メテオレミーラをパワーアップさせた進化系ではないか。

 この魔法は魔法使いの炎属性のように、敵に向けて攻撃する初歩的な魔法のたぐいだったはず……。


「ギルガメッシュの……、得意魔法の2つの内の1つで……」

 リヴァイアが地面を見つめて呟く。

「……1つ。……ああっ」

 このとき、彼女の心の中に遠い記憶がふと蘇った。


 ……ということは、

 もう1つの、あの土属性の攻撃魔法は……なんて言った?

「確か、習練中に一度だけ見せてもらった。いや……1000年前のローブを纏ったドワーフも同じ土属性の魔法を使っていたはず……。その名前……」

 ぶつぶつとちぐはぐな自分の遠い記憶を、何とかリヴァイアは蘇らせようと思慮。

 遠い1000年前の戦火の中で目撃した、ドワーフ達が使っていた魔法を思い出そうとする。


「……バ、バイ……オ。クエイ……。クエイク」


 小声で記憶から蘇ったその魔法の名前を、必死になって思い出そうとする。


「……バイオクエイク」


 刹那――


 ゴゴッ


 終局魔法メテオレミーラをエクスカリバーで受け止めた反動で、地面にめり込んでいた両足。

 両足の爪先から踵からに、なにやら地中を這ってくる振動を感じたリヴァイアである。


 サンドウォーム……? ここはサロニアムの砂漠ではない……

 と……いうことは?


 …………


 ……



 これも魔法か!



「そういうことか! ギルガメッシュ!!」

 刹那――

 リヴァイアが両足を力一杯踏ん張った。すかさず一気に、その場をジャンプする!

 今ジャンプしなければ、間に合わない……

 そう確信したからだ!!


「やはり小賢しい! 姑息だな! 終局魔法メテオレミーラは陽動だったか!!」


 飛び跳ねながらも、視線をギルガメッシュに睨みつけるリヴァイアが言ってやる。

「御名答! 名回答ですよ! 聖剣士リヴァイア――」

「いい加減、敬称……さまを覚えなさいな……って!」

 語尾が緩む。

 だが、そんなことは気にする暇はなかった。

 今飛ばなければいけない。

 本当に間に合わない。

 そう確信しているからこそだった!!


「この聖剣士リヴァイアに対して終局魔法をおとりにして、しょーもない小魔法を当ててくるとはな!」

 リヴァイアがジャンプした次の瞬間。

 数秒前まで立っていたその場所から、オレンジ色の光の柱が幾本も現れた!


「バイオクエイク! ……ちなみに終局魔法にあらずです」

「そんなことは、わかっているぞ!」

 オレンジ色の光が垂直に、それも数本の光の線。それが真っすぐにリヴァイア目掛けて上って行く。



 間に合わんか……

 我、聖剣士が……



 一瞬、

 リヴァイアは、ギルガメッシュが放ったバイオクエイクに自分がダメージを受けてしまうことを覚悟する。

 聖剣士として、それは屈辱そのもの。

 よりにもよって、こんな初歩的な陽動に引っかかってしまったとは……。

 聖剣士として名折れでしかない。


「それでもっ!」


 聖剣士として、絶対に譲れない――

 これが聖剣士。

「我は負けてはいけない!」

 死ぬことはなくても、相手は相手。魔賊奴ギルガメッシュだ。

 習練仲間としての先輩が、後輩の策略に引っかかってしまうことなんて……負けてしまうなんてことは許されない。

 リヴァイアの底意地であった。


「いま……一太刀ひとたちを!」

 魔法攻撃で何を言う? 確かに切れ味鋭いバイオクエイクの鋭利な光の線の束――レールガン。

 ……ギルガメッシュの作戦はこうだった。

 魂を使いダークバハムートを召喚して、終局魔法メテオレミーラをリヴァイアに向けてぶっ放す。

 しかし、これは囮である。

 魔法使いのなせる業か? 足元の地面下に別の魔法バイオクエイクを準備していた。

 こちらが本命――

 バイオクエイクを地中で動かして、リヴァイアが油断している隙をついて一気に攻撃する。

 これならば、聖剣士にも手傷の1つくらいは……。


 小賢しいギルガメッシュの考えそうな作戦である。





 続く


 この物語は、フィクションです。

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