第64話 絆になってしまった――
「……ええっと。ま、まあ……本心としては見せつけてから名誉ある伝説になりたい……です」
ギルガメッシュは、自分なりの回答を言い大きく頷いた。
魔賊奴という蔑称がある時点で、不名誉な伝説になると思うのは気のせいか?
「さあ、ささあ! さあさあ! さっさと、この戦闘シーンを終わらせましょう。ねえ! リヴァイアさま」
「笑止だ! 我は始めから思っていたぞ」
「私達、グルガガム大陸の北海特有の冷たくて尖った雨粒には、これ以上濡れてしまうと凍って死んじゃいますからねぇ」
くくっ……。
嗤うギルガメッシュ――これは皮肉だった。
「まあ……、でも、我も凍ることはできるのだが、申し訳ないが死ぬことはないぞ。死ぬのは、この天に見放された悪党だけ、お前のことだぞ!」
リヴァイア、お返しの皮肉である。
「ですよね……」
「そうだ」
では、ギルガメッシュよ――
この力を受けとれい!
*
ダークバハムートが再び両羽を大きく羽ばたかせる。
羽ばたきながら咆哮する。大きく雄叫びを吐いた。
雄叫びが、グルガガム大陸の万年雪の山脈まで届き、
その声……
まるで死霊が無念の思いを生ける者へ、地獄に引き釣りこんでやろうとする執念のような、地獄の業火に焼かれている者達の悲鳴のような、
耳を塞いでも手の平を貫通して聞こえてくる、墓穴から抜け出るゾンビのようなレクイエムだ。
ダークバハムートは、ゆっくりとドラゴンの鎌首をギルガメッシュへ下げる。
静かに……ゆっくりと口を大きく開く。
ギルガメッシュ――
ダークバハムートの力を受け入れよ――
キャーー
叫び声と共に、口の中から真っ赤な炎とは違う閃光が飛び出してくるのが見える。
「いわずもがな……。受け入れますよ」
ギルガメッシュのその言い様は、まるで居直った盗人の根性まるだしだ。
重ねていた両手には、まだ未完成の終局魔法メテオレミーラの大玉。
その大玉に、ダークバハムートの口から放たれた魔力の光をもろに浴びせる。
赤黒い光の玉に、赤黒い光を重ねて……荒れ狂うリヴァイアサンの海の……血の大津波の塊だ。
塊が徐々に、徐々に……。
赤と黒のストライプの手の平サイズ、そのちょっと大きめの球体へと収縮していく。
超新星爆発する前の、重力作用によるエネルギーの収縮のようだ。
「終局魔法メテオレミーラの完成なり! ……ですよ。聖剣士リヴァイアさま」
「……
しかし、リヴァイアの本音はこうだった。
1000年ぶりに見た……これが終局魔法だったな。
我がダークバハムートを召喚したとき、レイスがその身を張って発動した『究極魔法レイスマ』、1000年前のオメガオーディンをサロニアムの地下に封印することに成功した……我が夫ダンテマを
究極魔法とは明らかに性質が違う魔法――黒魔法の究極形態。
終局魔法――
「そうだな……。オードールが中立都市の国家を選択し、砦を構えた大きな灯台を急いで造った理由が、今わかったような気がした。『中立都市オードール砦灯台』の100年戦争。城塞都市グルガガムの武力と魔法都市アムルルの終局魔法を恐れたオードール。ああ、懐かしいぞ!!」
中立都市オードール砦灯台――
それは、1000年前の修道士見習いリヴァイア、騎士団に入隊したリヴァイアのころの思い出だ。
(次章で書こうと思っています……)
「長々と、何を感慨深げに独り言を仰っているのですか? そちらに、もう飛翔させていますからね。終局魔法メテオレミーラ―― 魔賊奴ギルガメッシュはマジックアタックを選択しました」
赤黒く回転してくる黒魔法――
リヴァイアに向かえば向かっていくほど、その赤黒い光は勢いをつけて早くなる黒魔法――
だけじゃない。
大きく、さらに大きく円周を広げて巨大化していく……黒魔法。
黒魔法の究極形態――終局魔法メテオレミーラがリヴァイアを殺さんと向かってくる!
「どうしますか? 聖剣士リヴァイアさま?? 逃げてもいいのですよ。くくっ……」
ギルガメッシュが嗤う。
「どうしますかもなにも……。我は死ねんの……だぞ?」
両手でエクスカリバーを構える聖剣士リヴァイア。
対する相手は、所詮、人間に毛が生えたくらいの半妖如きな魔法使いではないか。
我の敵ではないことは、十分に承知しているのだが……。
やはり……、さっさと命を奪うことが最善策なのかも――
『ねえ?』
まただ……
『ねえ? ねえ? 本当に殺しちゃうの?』
また、出てきたのか?
『さっきから、ここにいたよ……。ねえ? 殺すんだよね?』
……それの何が悪い?
『やっぱり、リヴァイアは血塗られた女騎士だということを認めたんだ……』
認めるも何も、そうなのだからな。
ダークリヴァイア――
お前もいい加減、小賢しいから消えてくれないか?
『私はあなた……。だからさ、消えない』
消えてくれないか――
『消えないけど……、でも、今は消えることができるよ』
そうか……
……では聞こう。
どうすれば、お前は我の中から消えてくれるのか?
『そんなの簡単! ギルガメッシュをエクスカリバーで、一刀両断すればいいだけじゃない』
ギルガメッシュを殺すと、お前は消えてくれるのだな。
『そりゃそうでしょ……。私はリヴァイアのダークな本音なんだから。あなたの意識では、ギルガメッシュを殺したくないって思っているけれど、本当は殺すしかないと思っているんだもん』
我が欲しいのはホーリーアルティメイトの魂であって、ギルガメッシュの命ではない。
『1000年を生きて、殺しに殺しまくってきた女騎士。
気がついていた。1000年前から――
『聖剣士なんて……、本音では汚名だと気がついているんでしょ? ここでギルガメッシュを生かしてしまうと、これからもずっと汚名に汚名を重ねて、彼と共に生きることになってしまう』
『でも、私言ったよね? 聖剣士という称号を今は忘れて、女騎士に戻って――つまり元の自分に帰れば簡単に終わる話でしょ』
ギルガメッシュを……
『相手は、大盗賊の元魔法使いだし……。天下のお尋ね者でしょ? なにを
ギルガメッシュを……、我はまたかつての友人の命を奪ってしまうのか。
『殺してしまうことで、リヴァイアは……もう殺す殺さないで迷うことはなくなる。迷うことがなくなれば……。たぶん、ダークなリヴァイアの私も、もう出てこないんじゃないかな?』
……それは、違うぞ。
『どういう……? 私のことが嫌なんでしょ。あなたの闇にある本音が』
ダークリヴァイアよ――
お前は……我にとって“必要悪”だということを自身はわからんのか?
我には聖剣士リヴァイアには、闇の心が必要なのだ。
綺麗事では……
オメガオーディンと同じ魔族でしかなくなる。
それは、それこそ嫌なのだから……
「どうしますか? 聖剣士リヴァイアさま」
魔賊奴ギルガメッシュが、またも小賢しくクスクスと
赤黒い光――終局魔法メテオレミーラがリヴァイアに迫ってくる
しかしだ――
「……それは、違うと思う」
リヴァイアは再び両眼を閉じる。
終局魔法メテオレミーラが目前に襲い掛かっている最中にもかかわらず。
死にたいのか?
否……死にたくても死ねない不死身の聖剣士――
「聖剣士を――忘れることはできない」
目前の攻撃には目も向けずに、リヴァイアは己の中にいる敵――ダークリヴァイアと問答中なのだった。
「忘れることは即ちだ……。レイスやルン、アリアにイレーヌ。それに……我が夫ダンテマを忘れることと同じなのだから……」
絆になってしまった――
聖剣士という冠、称号を授かったときから……1000年前の第4騎士団長リヴァイア・レ・クリスタリアである自分が笑顔で受け入れた聖剣士リヴァイアという『クラスチェンジ』は……、
絆なのだ――
我が生きる理由、生かされている理由が聖剣士という称号に集約されている。
それは軽々な冠なんかじゃないのだ。
レイスもルンも、アリアとイレーヌも……我のことを聖剣士と呼んでくれる。
死ぬことができない自分が見つけた生きる理由を、それがたとえホーリーアルティメイトの魂の奪取のためだとしても、
オメガオーディンを殺すためにも――
絶対に――
絶対
「どうしました……聖剣士さま? 死ななくても、かなりのダメージをくらっちゃいますよね?」
ギルガメッシュが敵前である自分を凝視することなく、目を閉じてなにやらもぞもぞと独り言をしゃべり続けているリヴァイアに落胆する。
首をわざとらしく傾けて、逃げも隠れもしない……戦おうともしていない。戦う気があるのかないのか、それを確かめるために、ギルガメッシュが挑発モードになって演じてみたのだった。
「忘れることは……」
しかし、リヴァイアは相変わらず瞑想状態。
「この剣……。聖剣エクスカリバー。元聖剣エクスカリバー」
今はダークリヴァイアとの自問自答で精一杯の精神状態だ。
リヴァイアは独り言を続ける――
「ホーリーアルティメイトと生きてきた、我にとって大切な1000年なのだから……。確かに、多くの魔物や人間をも殺してきたことは事実だろう。我は女騎士として命を奪ったという残酷な職責を背負って、そうして戦って生きてきたのは事実だぞ!」
「……リヴァイアさま? ……あの?」
「サロニアムのために、グルガガムとの戦火から逃すためにサロニアムに密航させてくれた、パパンとママンのためにも……我は」
赤黒渦を巻いている黒魔法の究極形態――終局魔法メテオレミーラ。
球体の不気味な光を維持しながら、回転しながら向かってきていた。
魔賊奴ギルガメッシュが放ったその攻撃魔法は、確実に聖剣士リヴァイアを目指している。
その距離も、あと数歩の至近距離だ――
避けなければ、かなりのダメージを受けてしまうことは確かだろう。
聖剣士リヴァイア――どうするんだ?
「我は聖剣士として、敵を殺す聖者としての道を……進むしかないのだ!」
刹那――
リヴァイアがキリッと両目を開けた。
開けた瞬間、すぐ目の前には赤黒い光の球体が迫ってきていることを……確認する!!
続く
この物語は、フィクションです。
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