第25話 嵐が去る。

 天道兄弟は、陽が暮れるころに帰ることになった。

「本家の皆さん、お世話になりました」

 玄関先で、大きなリュックと両手にトランク二つ抱えた蒼夜くんは、律儀に頭を下げた。

 天夜くんも蒼夜くんにならって、ぺこんとおじぎした。

「ねえねえ。天夜の予知夢はずれちゃったよねえ。だって、ぼくたちの勝ちだもん」

 星夜が、あっけらかんと言った。

「はずれ? いいえ、ズバリ言い当てましたけど?」

 天夜くんは、ぼさぼさの頭をぼりぼりかいて言った。

「負けるって言っていたのは、僕たちのことですよ?」

『はあぁっ⁉』

 あたしとマヨミヨが同時に驚いた声を発した。

「ふわああ。だれも、本家の皆さんが負けるなんて言ってないのに」

 天夜くんは、あくびしながらあきれていた。

「沙夜さん」

 唐突に、蒼夜くんに呼びかけられたと思ったら、両手をがっしり握って来た。

「ほんとうに、ほんとうに」

 鼻の穴を広げて、感極まってるような蒼夜くん。

「ありがとうござい」

 ました、を言い終える前に、蒼夜くんの頭には、すぽっと帽子がはまった。

 嫌な予感がして、あたしは、すぐさま手を振り解いた。

「……冬休み、また勝負しようぜ」

 キツイ目つきで、あたしに向かって宣戦布告してきた。

「一夜ばあさまが大事にしていたその懐中時計、ぜってー力ずくで奪ってみせるからな!」

「あら、蒼夜ぁ。ありがとうね。けれど、ばあさま、じゃなくって、おばあさまね」

 一夜ばあは訂正しながらも、まんざらではない様子で蒼夜くんに返した。

「じゃ、そろそろおいとまするわね」

 一夜ばあが、朱塗りの番傘を手に玄関の戸を開ける。

「あら。夕立かしら?」

 突然、土砂降りの雨が降り出した。

「天夜の言う通りね。夕方は土砂降りの雨だって」

 一夜ばあはそう言いながら、孫を引きつれて出て行った。

 しん、と急に静かになった。

「そういえば沙夜」

 舞夜が、半ば放心状態であたしに聞く。

「未来で蒼夜くんに会ったって、前に聞いたけど。学校でだったんだよね?」

「う、うん……」

 あたしの脳裏に、初めて未来で会った時の蒼夜くんを思い出す。

「冬だったんだよね?」

 立て続けの質問に、「?」を浮かべながらうなずく。

 それから、舞夜は、あたしの両肩をがしっとつかんだ。

「もしかして、冬休みからずっと小学校卒業まで、うちに居座るってことなんじゃないよね!?」

 舞夜が、取り乱してあたしに言った。

「いや、もしかしたら、アイツ調子に乗って中学まで居候する気じゃ⁉ ひぃぃぃっ!」

 舞夜がひどくうろたえる。あたしは、急いで懐中時計を取り出す。

「わかった。ちょっと待って。ちゃんと、今から確認してくるから!」

 懐中時計を操作する。

 そして、回したあとで気づいた。

 あたしは、うっかり時計の針を、反時計回りに回していたことを――


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