第24話 真実。

 座敷で、今一度正座をする。

 一夜ばあが、改まった口調で告げる。

「では、勝利されたあかつきに、舞夜さん、美夜さん、沙夜さんの要求をのむこととしましょう」

 一夜ばあは、冷静な眼差しをあたしたちに置いて言った。

「今すぐ、荷物をまとめて出て行って下さい」

 舞夜が、冷たく言い放った。

「新品のコンロが欲しいです」

 美夜が、きりりとした顔で言った。

 あたしの番――

「また、冬休みに遊びに来てください」

 あたしがそう言うと、蒼夜くんは顔を上げた。キョトンとあたしを見つめる。

「ちょっと沙夜!」

 舞夜が、怒ったように放った。

「……まぁ。別にいいけどさ」

 けど、すぐに舞夜は腕組して続け、つんと外方を向いた。

「沙夜さん」

 一夜ばあは、あたしの前に天道カルタを差し出した。

「本当は、紀夜ちゃんに言われていたでしょう? 取り返すようにって」

「あ……はい」

 あたしは、小さくうなずくと受け取った。

 それから、どうしても気になることがあった。

「一夜ばあは、本当は、あたしの懐中時計が、欲しかったんですよね?」

 一夜ばあは、うっと肩をすくめた。

「……その懐中時計は、もともと、私の物だったのよ」

『えええええっ⁉』

 一夜ばあ以外、全員驚ガク。

「けどね、十二歳の時、千夜ちゃんに負けちゃったのよ、超能力勝負でね。私と千夜ちゃん、双子なのにとても仲悪くって。それで、私が持っている懐中時計を千夜ちゃんに渡すことになったの」

 一夜ばあは右頬に手を当てて、ため息混じりに語った。

 懐中時計は、『時間操作』の超能力者だけでなく、他の超能力者でも、使い方次第で上手くコントロールできる道具となるのだそうだ。

「どこに隠してあるのか、ずっと探していたの。やっと見つけた時、千夜ちゃんの声が聞こえたわ」


 一夜さん。

 未来で、『時間操作』の超能力を持つ、沙夜さんに会ったら、その文字盤の裏を見るといいわ。

 あなたのように、意地汚い人間にはきっとぴったりでしょうから――


 ははん……千夜ばあも、なかなか毒舌だ。

 舞夜も美夜も、顔をゆがめて黙ってしまった。

「えっと。文字盤の裏、ですか?」

 あたしは、確認してみる。

「……本当は、私ひとりだけで見たかったんだけど。ま、いいわ」

 文字盤をはめこんだ金具と一緒に文字盤を外し、裏を確認する。

 小さく折り畳まれた紙が入っていた。

 あたしは、そっと開いた。


 魚心あれば水心


 そのことわざが、達筆な字で書かれていた。

「意地汚い人間だって、『テレパシー』を通じて言われた時、ついカッとなって。千夜ちゃんとケンカになったの」

 ふと、一夜ばあが涙をうるませていた。

「その夜だった。千夜ちゃんが、また『テレパシー』でわたしにこう言ったの」


 ごめんね、一夜さん……今まで、ありがとう……


「弱々しい声だったわ。とうとう、千夜ちゃんが生きている間に、私、謝れなかった……」

 一夜ばあは、ハンカチで涙を拭った。

 鬼の目にも涙……か。

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