第23話 勝負の行方。

 蒼夜くんが着ていたはずの衣服が、一式落ちているからだ。

「うふふ。あの子。『念力』で上手く脱出したのよ。だから、蒼夜が一足早かったの。残念だったわね」

 後方で、盛大なため息をもらした舞夜。

「サイアク……うちらが負けるなんて」

「仕方ないわ舞夜。負けは負けだもの。認めましょうよ」

 美夜が、うなだれる舞夜の肩に両手を添えてなぐさめている。

 あたしは、ゾッとした。未来で見たビジョンとまるで同じだから。

 あたしも、その場にくずおれた。

「ごめん……ごめん。あたし、何も役に立てなかったから」

 涙が、一気にあふれ出てしまった。

「やっぱり、あたしって天道家の人間に相応しくないよ……超能力があっても、結局役立たずだから」

「そんなことないわ沙夜ちゃん。沙夜ちゃんがヒントをくれたおかげで、切りぬけることができたもの」

 美夜がなぐさめてくれるも、超能力で何一つ切りぬけられなかった自分が情けない。

「美夜の言う通りだよ。三人寄れば文殊の知恵ってやつで、なんとか三枚は取れたんだし」

 さっきまで落ち込んでいた舞夜が、あたしの肩にぽんと手を置いた。

 けど、やっぱり負けて悔しい……。

 天道カルタを取り返すことも叶わなかったから……。

「さあ、反省会はすんだかしら?」

 一夜ばあが、着物の袖を口もとに当てて言った。

「こちらの勝利ね。約束通り要求をのんでもらうわ。まずは沙夜さんの、その首にかけた懐中時計をいただくわ」

 一夜ばあの要求通り、あたしは、仕方なく懐中時計を首から外す。

 右手を差し出した、一夜ばあの手のひらに置こうとして、

「まけるがかち!」

 と、突然、星夜が読み札を読み上げた。

「えっ⁉」と、一夜ばあは慌てる。

 星夜は、次の読み札を手に取る。

「おごるへいけひさしからず!」

「やめろ! やめろぉぉっっ!」

 一夜ばあが、しわがれた声を発しながら凄まじい勢いで取り上げた。

 星夜は、一夜ばあに圧倒されているのか、目を丸くしたままかたまってしまった。

「お、鬼ババァッ!」

 星夜が、一夜ばあに向かって指を差した。

 それから、『瞬間移動』で、あたしたちのうしろに隠れたのだった。

 鬼ババアは失礼だけど、お団子スタイルはくずれ、一夜ばあの髪は、春雨みたいにぱきぱきとしていて、真っ白になっている。

 天道カルタを抱えるようにしてうずくまり、ぜえぜえと呼吸を荒くしていた。

「一夜おばあさま」

 座敷の戸がそっと開いて、蒼夜くんの声が聞こえた。

「ちょっと待って。アイツ、服って着てないんじゃ?」

 舞夜の発した言葉に、あたしと美夜がびくつく。

 一夜ばあのそばに座る蒼夜くん……。一瞬顔をそむけたけど、あたしたちは、ほっとした。紺色の甚平をまとっていたからだ。

「『に』の札は、ことわざ通り、二兎と追う者は一兎も得ず。一兎も得ることが出来なかった、本家の皆さんの取り札です」

 間違いを蒼夜くんは指摘した。

「それから、負けるが勝ち。舞夜さん、美夜さん、沙夜さん。本家の皆さんの勝ちです。僕らは、負けました」

 一夜ばあのは、呼吸を整えると姿勢を正す。

「……蒼夜の言う通りね」

 力なく言って立ち上がる。立ち上がりながら、一夜ばあはまた、若々しい女の人の姿に戻っていった。 

「いさぎよく、こちらの負けを認めるわ」

 こちらに向き直って、一夜ばあは言った。

 舞夜が、ほっと胸をなで下ろした。

 話しがあると言って、一夜ばあは、また座敷に集まるよううながした。

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