第19話 要注意人物。

 五時の鐘とともに帰宅。

 いろいろ疲れて、自分の部屋へ戻る気力すらも残っていなかった。

「疲れたぁ」

 ソファーに身を委ねる。

「お姉ちゃん、トランプしよーよ」

 星夜が、あたしの服を引っ張ってくる。

「星夜はずるい。『瞬間移動』で行き来できるんだからさ」

 あたしは、ソファーに顔を突っ伏したまま文句を言ってやった。

「神経衰弱しよーよ」

 あたしの文句もスルーで、星夜は服を引っ張って来る。

「わかった。でも、ただの神経衰弱じゃつまんないから、超能力神経衰弱ね」

「わぁい。やるやるー」

 星夜、意味わかって言ってんのかな。

 そもそも、あたしだったら百発百中勝負に勝つんだから。

 星夜が先に引く。

「あー、ハズレたぁ」

 あたしの番。

 懐中時計で時を止めて、トランプを全部めくる。

 超能力勝負のルールは、相手にケガさえさせなければ、どんな方法を使ってもいいんだもんね。

 トランプの位置を記憶したあと、もう一度時を動かす。

 全部取ってやった。

「おねーちゃん、ずるーいっ!」

「へへへっ、カンタン、カンタン」

「やだやだー、絶対ずるしたーっ! もう一回やるー!」

「何度やっても、ムダ。あたしが勝つって」

 だだをこねる星夜に、あたしはふんと鼻であしらう。

「それなら、ママも混ぜてちょうだい」

 あたしの後ろで、ママが言った。

「星夜、チームでやりましょう」

「わーい。ママとチームだー」

「何それ! 『透視』できるママに、絶対勝てるわけないよ!」

 あたしは目をむいた。

 星夜チームは不戦勝。どっちがずるいんだか。


 ママの特性夏野菜カレーを食べながら、あたしは天道兄弟に会ったことを話した。

「蒼夜くんに関しては、帽子を被る前は、優しそうなイケメンなんだけど。天夜くんはつかみどころがないというか……」

「蒼夜くんって厄介な子ね。一夜おばちゃんに文句言ってやったんだけど、『わたしの可愛い孫だから、温かい目で見てやってくれって』ったく」

 ママは、ぷりぷり怒ってカレーを口に運ぶ。

「一夜ばあって、千夜ばあと瓜二つなのかな」

「全然よ」

 ママが、即答した。

「似ても似つかないわ。性格も顔も」

「なんだ、がっかり」

「それはそうと、一夜おばちゃん。蒼夜くんを利用して、何か企んでいるに違いないのよね」

 ママは、いぶかしそうに続ける。

「千夜おばあちゃんが生前のころは、よく本家を出入りしていたそうなの。何か探し物をしていたって十六夜おじさんから聞いていて、一夜おばちゃんが、何をしているのか『透視』したことがあったの」

 ママの話しに、あたしは、ごくり、とカレーを飲みこんだ。

「タンスをあさっていたところを、千夜おばあちゃんに気づかれて、言い合いになっていたわ」

「うげっ」

 大人でもそんないやらしいことするのか。顔が引きつった。

「それから、一夜おばちゃんは、しばらく本家の出入りをやめるようになったけど。千夜おばあちゃんと、結局、ケンカ別れのままみたいで」

 ため息が止まらないママ。千夜ばあは、そのあと亡くなったからだ。

 一瞬、しんと静まり返ったあと、

「で、話しを戻すけど」

って、ママは視線をあたしに戻した。

「恐らく、一夜おばちゃんは、本家のお宝を狙っているはずなの」

 ふいに、ママは何か思い出した顔つきになった。

「そうよ! もしかしたら、沙夜が持っているその懐中時計を狙っているのかも⁉」

「えっ?」

 ママの驚く声にも驚いて、あわてて懐中時計を手に取る。

「そうだわ、思い出した。ママ、子どものころ、千夜ばあのタンスの中にあったその懐中時計を見つけたの。懐中時計のこと聞いたら、千夜ばあに、なぜか怖い顔をされて注意されたわ。いくら知っている人でも、絶対にありかをしゃべってはいけないって」

 ママの話しに、あたしはぎくりとなる。

「他ならない一夜おばちゃんが狙っているからだわ」

 ますます、ぎくっと肩が吊り上がる。

「沙夜、まさかだけど。蒼夜くんに見せたりなんてしてないわよね?」

 ママが、じっとにらんでくる。

 あたしは必死に首を横にふった。

「ま、まさかまさか。そんなことするわけないよ。これを受け継ぐ時、千夜ばあに言われたもん。むやみに人に見せてはいけないって」

 思わず声が上ずってしまった。

「ならいいけど」

 引き下がってくれてホッとしたけど。

 ママにウソついてしまったのは心苦しい――。

「とにかく沙夜、要注意よ」

 ママに念を押され、あたしは、かくかくとぎこちなく縦にうなずいた。それから、すっかり冷めたカレーをかきこんだ。


 就寝前、スマホを確認すると、ぎょっとした。

 マヨミヨから何十も着信履歴が入っていたからだ。

 慌てて、舞夜に電話をかけた。

『九時半ぴったり。やっぱり、天夜の予知夢は正確だわ』

 もしもし、を言う前に舞夜が一方的に話した。

『沙夜。言いそびれたけど。明日の午後一時、超能力勝負することになってるから」

「明日って……きゅ、急に!?」

 声がひっくり返りそうになった。

『バタバタして、あたしも美夜も言うの忘れてた』

 そういえば、台所で美夜がなんか言いかけてたっけ。

「どんな勝負でも、絶対負けないよ! 受けて立つよ!」

 あたしは、胸をどんと叩いて意気ごむ。通話モードだから、見えてないけど。

『沙夜がいれば、負けない気もしてくるよ』

 舞夜が前向きな口調で返した。

『じゃあ、明日ね。一夜ばあが立ち会うから、早目に寝なよ』

 じゃね、とさらりと電話を切った舞夜……。

「一夜ばあ……」


 ぎょええええええっ!


 窓ガラスが割れんばかりに絶叫したことは、言うまでもなく。


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