第16話 蒼夜くん。

 自転車に乗って、あたしはマヨミヨの家に急いだ。

「今すぐにでも勝負して、とっとと帰ってもらうんだから!」

 あたしが来た以上、絶対負けることは無いし何も怖くない!

 強気の舞夜と、力強い美夜が一緒なら、男子一人に負けるわけないんだから!

 風に乗って、自転車を颯爽とこぐ。

 何もかも懐かしい。

 坂を上がった見晴らし台に、図書館の大通りも、竹やぶのトンネルも。

 我が故郷が、あたしの怒りを鎮めさせてくれる。

 マヨミヨの家に到着した。

 変わらない、立派な日本家屋の大屋敷。

 庭園に踏み入れる。

 ふと立ち止まる。最近、飼い始めたというウサギ小屋の前で、誰かエサやりをしている。

 エサやりを終えると、ほうきを手にこちらを振り向く。

 太陽の日差しを吸い込んだ、白いシャツのまぶしい、さわやかな顔立ちの男の子……。

「イケメン……」

 思わずつぶやいたところで、男の子とバッチリ目が合った。

「こんにちは」

どきーんっ! と、心臓が高鳴った。

「お客様ですか?」

 物腰丁寧なこの男の子――一体何者⁉

「こ、こんにちは。あの……とりあえずマヨミヨ、舞夜と美夜に会いに来ました」

 緊張して、つい声が上ずってしまった。

 どぎまぎしていると、二階の窓が、ガラガラと開いた。

「沙夜じゃん!」

 舞夜が窓から顔をのぞかせると、『飛行』で地上へ舞い降りてきた。

「沙夜、もう帰って来たんだ!」

 舞夜が嬉しそうに言った。

 よかった、門前払いされたらどうしようかと思った。

 あたしも身長はそこそこ伸びたけど、舞夜も伸びた。

 舞夜のショートカットとボーイッシュな雰囲気は変わらない。

 あたしも、相変わらず肩にかかる程度の髪に、毛先は、するめの足みたいにあちこち跳ねている。

 舞夜が、ぷっとふいた。

「沙夜。その顔、どうしたの?」

「蒼夜くんって子の仕業だよ。蒼夜くんって、一体どこにいるの⁉」

 人に笑われて理不尽だ。

 と、舞夜は、親指を突き立て、後方を指差す。

「彼だよ」

 そう言って、ほうき片手にニコニコしている蒼夜くんを指した……。

「……うそだ」

 あたしは、思わず疑った。でも、舞夜が冗談言うわけない……。

「……さっき、あたしの家のそばまできて、『念力』で家中の家具を浮遊させたのも、マジックであたしの顔に落書きしたのも、全部キミ?」

 問い質すと、蒼夜くんははっとした。

「すっ、すみません! 僕、やっぱりまた『念力』を使ったんですね!」

 突然、顔を真っ赤にしてうろたえ、ペコペコ頭を下げてきた。

「話は中でしよう。また、美夜がフルーツジュース絞ってるところだったから」

 あたしは、家に上がらせてもらう。玄関に上がる時、いつもは飾られていなかった、ヘンテコな張り子のブタが飾られていた。

 先に仏間へ向かい、千夜ばあの仏壇の前に座る。

 遺影の千夜ばあに向かって、そっと手を合わせた。

(千夜ばあ、帰って来ました)

 手を合わせたあと、仏間の隣の座敷に行く。

 長テーブルの前に、蒼夜くんと向かい合うようにして、あたしは舞夜の隣に座る。

 美夜はジュースを並べ終えると、あたしの隣に座る。

「沙夜さん、改めまして。一夜ばあの孫で、天道蒼夜と申します」

 蒼夜くんは、長テーブルから離れたところで丁寧に指をついて自己紹介をした。

「先ほどは、申し訳ありませんでした」

 さらに、畳にぴったり額をつけてあたしに謝罪をした。

「顔を上げて。それより、なんで、『念力』でイタズラなんかしたの?」

 問い質すと、蒼夜くんはそっと顔を上げた。

「すべて、この帽子のせいなんです」

 蒼夜くんは、シャツの下から白い帽子を取り出した。

 未来で会った、あの男の子が被っていた帽子と同じだ。

 違和感あるけど、やはり同一人物に間違いない。

「天道家の家宝の一つ、『念力』の帽子。この帽子のおかげで、僕の超能力が発揮されるんです」

「家宝⁉」

 帽子に、青いつばのついた白い帽子。でかでかと、つばの上には『T』と赤文字のマークが入っている。

 そして、あたしはママから聞いた話しを思い出す。

 天道家には、いくつかのお宝がある。

 超能力勝負には、天道家のお宝がかけられているのだと。

 蒼夜くんの帽子は、もともと本家の家宝だったとママから聞いていた。

「その……厄介なのが、僕の意思と反してこの帽子を被ってしまい、超能力が発動してしまうことなんです」

 蒼夜くんが話す途中で、突然、グラスだけがカタカタ揺れ始めた。

「え? 何? 何?」

 あたしたちは動揺する。

 それから、あたしの手から帽子が離れ、蒼夜くんの頭にすっぽりと収まったのだった。

 同時に、揺れがおさまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る