第13話 最初から負けは決まっている。
ベッドの上に置かれたスマホ。ちょうど、美夜から電話がかかってきた。
「もぉーひどいよ。舞夜ってば、一方的に話して切っちゃうんだから」
テレビ電話モードにし、美夜に向かって開口一番グチをこぼした。
『ごめんね、沙夜ちゃん。わたしが舞夜に代わって謝るわ』
美夜が申し訳なく言った。舞夜はトレーニングに出がけて不在だ。
「でも、なんで舞夜は帰って来るなって言うわけ? めそぉぉん。悲しいよ、泣くよ、あたし」
あたしは、わざとらしく泣き真似をする。
『十二歳以上の本家の子どもがひとりでも欠ければ、勝負はできないルールだから。あきらめさせて、逃げ切ろうって作戦なの』
美夜が、苦笑混じりに応えた。
「だから、あたしに帰って来るなってこと?」
『そういうこてね。ごめんね、沙夜ちゃん』
がくっと、あたしはうなだれた。
「えーっ。でも逃げるって、らしくないじゃん」
『それがね……弟の天夜くんの予知夢が、かなり正確すぎて』
美夜は歯切れ悪く答えた。
『必ず勝負に負けるって、言ってくるのよ』
「え……」
天夜くん超能力『予知夢』は百発百中で、舞夜が包丁で小指を切ったことも、美夜が、大事な壺を『怪力』でうっかり割ってしまうことも、予知夢で全部言い当てたのだそうだ。
「本当に負けるのかな」
モヤモヤする。
「ちょっくら、あたし、未来へ行って見てくるよ」
あたしは時計を使って『時間操作』をする。
大体、一週間後くらいでいいか。
行きたい時間場所へ――心の中で念じると、部屋の中が右回りへぐにゃりと曲がっていく。
そして、景色がすっかり変わった。
あたしは、マヨミヨんちの庭にいた。
後方で、盛大なため息をもらした舞夜。
「サイアク……うちらが負けるなんて」
ふり向くと、舞夜は、地面に両手をついてうなだれていた。
「仕方ないわ舞夜。負けは負けだもの。認めましょうよ」
美夜が、舞夜の肩に両手を添えてなぐさめている。
「……負けた? ねえ。あたしたち、今まで何の勝負していたの」
あたしは、マヨミヨに聞いた。
「何言ってるの? 沙夜ちゃん。わたしたち、さっきまで天道カルタで――」
美夜が言いかけたところで、突然、視界が左回りでぐにゃりとゆがみ始めた。
次に目を開けた瞬間、あたしは、自分の部屋に戻っていた。
『沙夜ちゃん、聞こえてる?』
美夜の声が、スマホ越しに聞こえてきた。机の上に立てかけたスマホは、美夜とビデオ通話の状態になっている。
「美夜……たしかに、あたしたち勝負で負けるみたいだよ」
あたしが応えると、美夜は目を丸くした。
『沙夜ちゃん。もしかして、未来に行って来たの?』
「うん、行って来た。で、何で負けるのか美夜に聞いた時、天道カルタで、って言いかけたところで、強制的に戻されちゃったけど」
『天道カルタ? 初めて聞いたわ』
「とにかく、天道カルタで勝負さえしなければいいんじゃないかな」
『……そうね。舞夜にも言っておくわ』
これで、あたしたちが負ける可能性はなくなると信じたい。
あたしは、ふと気になった。
「勝負の勝ち負けで、結局どうなるわけ?」
『あたしたちが勝負に負ければ、負かした人数分だけ、相手の要求を何でも聞かなくちゃいけなくなるの』
美夜が、ため息混じりに答えた。
「そういえば美夜。天道兄弟ってどんな子なの? 蒼夜くんって、何の超能力者なの?」
質問すると、美夜はピコンと写真を送信してくれた。
あれ? なんか雰囲気違うな。
帽子を被っていないせいか、超優しそうな爽やかイケメン……。
『蒼夜くんは『念力』の超能力者よ』
「えっ、ちょっとうらやましい」
念じるだけで物を自在に操ることができる、『念力』だなんて。
ごろ寝でテレビを見ているときとか、両手がふさがっているときとかに役立ちそうだもん。
美夜は、天夜くんの写真も送ってくれた。星夜と変わらないくらい眠たそうな顔をしている。
『蒼夜くんも天夜くんも、千夜ばあのお葬式に会ったことがあるはずなんだけど。わたしも、全然記憶になくて』
蒼夜くんは超恥ずかしがりやで、隠れていたらしい。天夜くんは、寝てばかりいたとか。
あたしはマヨミヨと号泣で、それどころじゃなかった。
「うん、あたしも覚えてない。けど、少し未来へ行って、タキ田小でたぶんこの人に会ったんだ」
『そうなの⁉』
美夜が、驚いて返した。
「ただ、会ったのは冬だった。それから無言で、あたしの懐中時計に手を伸ばしてくる感じだった」
『冬までうちに居座るつもりなの⁉ 最悪だわ!』
美夜は、「ムンクの叫び」みたいになって言った。
『それに、蒼夜くんが言っていたの。天道家のお宝を必ず奪って見せるとか。きっと、沙夜ちゃんの懐中時計を狙っているんだわ」
「げっ! だとしたら、絶対見せないようにしなくちゃ」
あたしは、懐中時計を慌てて服の中にしまった。
「とにかく、あたしは来週そっちへ帰るから。とっとと勝負して、とっとと追い出そう」
『うん。『時間操作』できる沙夜ちゃんがいれば心強いし。いつまでも一つ屋根の下じゃ、たまったもんじゃないわ』
美夜が、むくれて答えた。
ふいに、電話越しににぎやかな声が聞こえてきた。
『わっ、ちょっと星夜くん、天夜くんっ⁉』
美夜のスマホががたんと傾いて、天井を向いてしまった。
「えっ! ちょっと待って、また星夜そっちに行ってんの⁉」
あたしが聞くと、突然、舞夜が画面に映った。
『星夜がこっちに来て、天道兄弟とうちの中で鬼ごっこ始めたんだよ! あーっ、もうっ! うるさい!』
スマホから聞こえてくる、ガチャン、バリン、ドタッ、バタバタ……
こりゃ、波乱万丈な予感だ……。
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