第10話 放火犯捕獲作戦。

 十二月二十四日、夜。

 クリスマス会ではなく、放火犯捕獲計画実行の時が、いよいよやって来た。

 ママに気づかれないように、そろりそろり、リビングの前を横切る。

「こんな時間に、どこに行くの⁉」

 背中を向けて、引っこしの準備をしていたママに呼び止められて、あたしは背すじがシャキッとなった。

「ちょっと、散歩に」

「もう七時半よ? 沙夜、何考えているの?」

「マヨミヨんちに、忘れ物しちゃって」

「マヨミヨねえちゃんち、ぼくもい――」

 ママが、言いかけた星夜の口をあわててふさいだ。

「忘れ物なら、明日取りに行けばいいでしょ。さっさと、お風呂に入っちゃいなさい」

「はーい。じゃあ、お風呂に入りまーす」 

 ええい、やむを得ない。懐中時計のボタンをカチッとおす。

 時が止まった。ママは、ダンボールにガムテープをはろうとする体勢で停止。星夜は、ミニカーに手を置いたまま動かない。

 家を出たところで、ボタンを押した。

 

自転車を走らせまっしぐら――竹林のトンネルで、マヨミヨと落ち合った。

「よし、予定通り、計画実行だね」

 舞夜はそう言うと、空高く飛行する。

 放火犯捕獲計画は、いたってだ。

 上空から、舞夜が監視する。無線機で、情報を受ける。放火犯が現れたところで、あたしが時を止める。あたしが縄で、放火犯をぐるぐる巻きにしたあと時を動かす。美夜が力ずくでおさえつける。警察に連絡して、放火犯御用――といった流れだ。

 火事のあった時間は、十二月二十四日の九時だ。あたしと美夜は、竹林のかげで息をひそめた。

「怪しい人物、南方向からタンクを手に竹林に侵入。どうぞ」

「了解」

 舞夜から無線がとどいて、美夜が応答した。

 あたしは、美夜に目くばせしたあと、時をとめた。

 放火犯のいる方向に向かってライトを照らすと、全身黒ずくめの男の人が、キャップの開いたタンクをかついだ状態で止まっていた。

 放火犯からタンク、マッチ、ライターを回収。そして、放火犯の体を縄でぐるぐるに巻きつけてやった。

 放火犯から離れたところで時を動かした。

 ところが、縄のしばり方が甘かった。

 放火犯は力ずくで縄をほどき、縄が足にもつれて転びながらも、竹林のトンネルから出て行こうと必死だ。

「逃がさないわっ!」

 美夜が、竹を軽々と手で引っこ抜いて、放火犯目がけて投げつけた。一本目で体をなぎ倒し、二本目で頭を直撃。三本目で、太い竹の下敷きになって、身動きが取れなくなった。

 ほどなくしてパトカーが来た。気絶した放火犯に、警官が手錠をかけた。

「おねーちゃん!」

 星夜が、あたしの目の前にぱっと現れた。

「やっぱり、マヨミヨねえちゃんたちのとこにいたんだ。ママも、おじさんおばさんたちも、もうすぐ来るよーん」

 星夜の話しを聞いて、あたしは顔を引きつらせた……。

 こうして、連続不審火の事件は、無事に解決したワケだけど――

「子どもだけで、危ないことしちゃだめでしょ!」

 あたしたちは、ママたちにこっぴどくしかられたことは言うまでもない。

 

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