第4話 ボンジンはつらいよ。
十二月の突き刺すような冷たい風に、マヨミヨと肩を並べて歩くあたしは、ガタガタと震えた。
「寒い……冬なんて、なければいいのに」
「冬があるから、こたつでみかんとアイスがおいしいじゃん」
なげくあたしに対し、舞夜が力説した。
「そうよ。クリスマスと、お正月もあるし。冬って、すっごく楽しみ」
美夜が、目を輝かせて言った。
「それから、冬と言ったら、とっても、大事なことを忘れちゃいけないよね」
舞夜が言うと、あたしも美夜も大きくうなずく。
大みそか。千夜ばあの、命日――それだけは、どんなに忘れっぽいあたしでも、絶対に忘れない。
『一月十四日、沙夜の誕生日!』
舞夜と美夜が同時に言って、あたしを見つめる。
「盛大にお祝いするからさ。ああ、冬って楽しみ!」
舞夜が、ふわりと宙返りしてはしゃぐ。
「あたし、誕生日、来て欲しくないもん……」
あたしが口をとがらせると、なんで⁉ どうして⁉ と、同時につめ寄るマヨミヨ。
「だって、天道家の血筋で、あたしだけ超能力に目覚めてないんだよ?」
そっか、と、同時になっとくするマヨミヨ。
「あたしさ、目覚めるなら、火が使える超能力がいいな。冬の間、ぽかぽかであったかいと思うんだよね」
「でも、『発火』の超能力は、かなり危険って聞いたよ。自分の知らないところで、火事が発生するんだからね」
舞夜の指摘に、あたしはがっくり。
「だよね。超能力に目覚めたばかりとか、歳が若ければ若いほど、超能力を上手くコントロールできないから、でしょ? だから、星夜もあっちこっち好き勝手飛んでくんだよね」
あたしが言うと、マヨミヨは、そろってうなずいた。
「そういえば、タキ田市で連続不審火があったよね。放火犯が、その辺でうろついてなければいいけど」
舞夜は、ひたいに手をかざして辺りをキョロキョロする。
「もし見つけたら、わたし、力ずくでねじりふせてやるんだから」
おしとやかな顔で、美夜は指の関節をポキポキ鳴らす。
うん、たのもしい……。
校庭の遊具広場のそばを通ると、低学年の男の子たちが、困った様子で木の周りを囲んでいた。
一人が登ろうとして、すべって落下した。
「あたし、ちょっと見てくる」
舞夜のあとに、あたしたちも続いた。
どうやら、五メートル先の木のてっぺんに、カイトが引っかかったようだ。
「あたしにまかせて」
舞夜は、木に登るふりして『飛行』の超能力を使った。すみやかにカイトを取って下りると、男の子にわたした。
「お姉さんすげえ!」
「忍者だ!」
尊敬のまなざしで、男の子たちは絶賛する。
超能力が人の役に立つなんて、超うらやましい。
家に帰ると、そーっと家に上がり、リビングのドアの前を横切る。
階段に足を踏み入れたところで、ママが勢いよくドアを開けた。
「おかえり沙夜、今日テスト返されたわね?」
「えっと、テストって?」
あたしは、苦笑いで聞いた。
「とぼけてもムダよ。ママにはね、ズボンの中に、いく重にも折りたたまれた、算数のテストが見えるの。それに、テストの結果も」
……ママの『透視』能力って、なんて厄介なんだろう。
「どうして、三十点だったのかなあ?」
「あはは……」
もはや、笑うしかない。
「罰として!」
ママは、どん、とあたしの前に新聞紙の束を二つ置いた。
「これ、リサイクルステーションまで捨ててきて。それから、星夜のお迎えも行ってきてちょうだい。あの子、舞夜ちゃん美夜ちゃんのおうちで遊んだまま、戻って来ないの」
「えー、マヨミヨんち遠いのに。それに、『瞬間移動』で帰って来させたらいいじゃん」
「口答えするなら、こっそり隠している悪いテストの点数全部言い当てて、パパに報告しますからね」
ママのおどしに、あたしはシャキッと背すじを伸ばし、新聞紙の束を両手に提げる。
「千夜おばあちゃんのところに、ちゃんと手を合わせてくるのよ」
「わかってるよー」
玄関のドアごしに、あたしは返事をした。
「もぉー。こんな時、美夜がいてくれれば」
歯を食いしばって、三百メートル先のリサイクルステーションまで歩く。うでが悲鳴を上げたけど、コンテナにたどりついて放り入れた。
ひと仕事終え、家のドアノブに手をかけたところで、大事なことを思い出した。
「そうだ、あたし星夜を迎えに行くんだった」
舞夜みたいに、飛んで行けたらなあ。
これだから、ボンジンはつらいよ。
でも、自転車があるだけマシか。
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