第3話 違和感。

 四年三組の教室に着くと、いつもより教室が騒がしかった。

「ぜってーユウレイだって!」

「いいや、宇宙人だった!」

 クラスのみんなは、ユウレイ派と宇宙人派で、いったい、何をもめているのだろうか。疑問に思っていると、マヨミヨが、教室のドアのそばで手招きしていた。

「今朝のニュースに、星夜が映ってたでしょ」

 ショートカットでボーイッシュの舞夜まよが、腕組みしながら聞いてきた。

「げっ! それのことか」

「校内中、ユウレイだ、宇宙人だって持ち切りだよ? どうすんの」

 舞夜にギロリとにらまれて、あたしは「うっ」と畏縮する。

「オープンしたばっかのアベニールビルに、変なうわさが流れちゃったわね」

 長い髪を、一つの三つ編みに束ねた美夜みよは、くすくすと笑った。いつも勝気な舞夜とは真逆で、美夜はどんなときもおだやかだ。

 ふたごの姉妹、マヨミヨ。姉の天道舞夜と妹の天道美夜は、あたしの大親友であり、いとこだ。

「あたしの『飛行』でも、美夜の『怪力かいりき』でも、騒動を止められないしなぁ」

 舞夜が、ため息まじりに言った。

 そう、このマヨミヨは、四歳で超能力に目覚めた。

 舞夜は、空を自在に飛べる『飛行』の超能力を持つ。地上から屋上までひとっ飛びできるし、鳥みたいに飛び回ることも可能だ。

 美夜は、『怪力』で、どんな重い物でも、軽々持つことができる超能力者だ。おしとやかに見えて、毎日、リンゴを片手でにぎりつぶしてリンゴジュースを飲んでいるとか。本何百冊も、机もイスも、指一本で何でも軽々持てちゃう超人だ。

「サヨマヨミヨ~!」

 考えこんでいると、クラスメイトたちがわらわら、あたしたちにつめ寄って来た。

「お三方は、ユウレイ派ですかぁ⁉ それとも宇宙人派ですかぁ⁉」

 勢いに負けそうになったけど、舞夜が、「こほん」とせきばらいをして前におどり出た。

「うちら、非現実なことには全く興味ありませんっ! 以上!」

 ビシッと、舞夜が答えると、つまらなさそうにクラスメイトたちは去って行く。

「超能力のことは、天道一家だけのヒミツだし。知らんぷりが一番だね」

 舞夜の前向きな言葉に、あたしと美夜もなっとくした。

 チャイムが鳴って、舞夜は四年一組、美夜は四年二組、あたしは四年三組へ、それぞれ教室へ戻った。

 

 算数の授業。返却された三十点のテストを手に、あたしはわなわなと震えた。

「こんな点数、ママに見せたら……」

 

 ――天道家の恥よ! 

 

 ママの、鬼のような形相と怒号を頭に浮かべてビビる。

 三十点の算数のテストを何重にも折りたたんで、短パンのポケットにしまった。

 あたしって、ほんとダメだな。

 窓に映った自分の顔を見ると、ますます、自分のことがイヤになってくる。

 マヨミヨみたいに勉強もできないし、美人じゃないし。肩にかかる髪は、するめの足みたいにあちこち跳ねているし。

 それに――

 一月で十歳になるのに、いまだ超能力にも目覚めないし。もし、超能力があったら、あんな悪い点数だって取らなかったかもしれない。

 はぁぁぁ、乙女のため息が止まらないよ……。

「――さん。天道さん!」

 先生に呼ばれて、あわてて起立した。

「はいっ!」

「聞いてるの? あなただけですよ。宿題、出ていないのは」

 先生の言葉に、あたしは思い出して、ピキッとかたまる。窓のすきま風が、追い打ちをかけるようにヒュウウと氷河期に変える……。

「忘れました……」

 そう答えたあたしに、先生は、あきれ顔でため息をつく。同時に沸き起こる、クラスメイトのあははは、という笑い声。

 あたし、自慢じゃないけど超忘れっぽい性格なんだよね……。

 席に着いて、あたしのバカバカバカ! とグーで頭をたたく。

 ほんとダメなやつ!

ああ……とうとう、めまいまでしてきた。

目の前の景色がぐわんと回る……。

「天道さん!」

 再び先生に呼ばれて、あたしは、あわててて立ち上がる。

「聞いてるの? あなただけですよ。宿題、出ていないのは」

「へ……?」

 先生の言葉に、あたしは目が点になる。

「……先生、さっき言いましたけど?」

 クラスメイトの痛い視線を感じる中、先生は、あきれ顔でため息をつく。

「さっきって? 何をですか?」

「えっと、なので、宿題を忘れましたってことですけど……」

 先生は、あたしを見すえて、はあ、と盛大なため息をついた。

「今、先生は初めて聞きました」

 教室中、ピリピリと嫌な空気が流れるのを感じた。

 あれ? 

 何だか、違和感……。


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