幕間

「ねーお母さん! 今日もあのお話して?」

「またヴィルヘイムの冒険? でもアンは興奮して、眠れなくなるでしょう?」

「うん! だから話して!」

「寝かしつけるためのお話なんだけどなぁ……」


 お母さんは困った顔をして、私の頭を柔らかく撫でた。

 私の中の、セピア色の記憶。


 お母さんに体を寄せてお話を催促すると、お母さんは私の視界を手でふさいだ。


「ちゃんと寝るのよ?」

「うん!」

「じゃあ、始めましょうか。……昔々、あるところにヴィルヘイムという少年がいました」


 語りかけるような優しいお母さんの声に耳を傾ける。

 私が大好きなおとぎ話。


「ヴィルヘイムは、生まれた村ですくすくと元気な子供に育っていきました。しかし、ある日村が戦争の舞台になってしまったのです」

「ヴィルヘイム、逃げてー!」

「うんうん。お口閉じて、静かに聞いてね?」


 何度聞いても、ハラハラしてしまう物語。


「ヴィルヘイムが死んでしまう直前、彼は神様から強い力をもらったのです。ヴィルヘイムはその力を使い、無事に戦争から逃げ出しました」

「お母さん! 前は敵を倒してたよ!?」

「あら、そうだったかしら? まあ、どっちでもいいわよ。とにかく、神様から力をもらって、無事に戦争から生き残りました」


 お母さんのお話は、適当なことが多い。

 本は貴重だから、お母さんのお話は全て口伝えのものなのだ。

 だから、前に話してくれたことと違う内容を言っていたりする。


「その後、その力を使って冒険者になることに決めたヴィルヘイムは、この国の首都である――」

「デアスター!」

「正解! デアスターに向かいました」


 そして、物語は展開してゆく。

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