一寸法師 三

 思った通りの事が起きました。


 一寸法師はすくすくと育ち、半年で一寸から二寸にまで伸びました。そして横にちょっと伸びました。はねるとたぷんと揺れる何かがあります。


「ただいまー」

「おかえり一寸法師。学校はどうだった」

「みんなでかけっこしたよ」

 

 一寸法師は小さな小さな『らんどせる』を下ろしながらにこっと笑いました。その笑みに思わずおじいさんの顔もほころびます。


「そうかそうか。ほれ、どらやきだ」


 わあい、と歓声を上げて、一寸法師はどらやきにかぶりつくと、はむはむ、とあっという間に食べ終えてしまいました。


 横に伸びたのは明らかに一般の人と同じ食事をして、しかも間食までたっぷりとっていることに原因があります。はい、もちろん。

 

 ですが、親バカ、というより、じじバカ、ばばバカな二人は、なんとも思わないのでした。


「おかえり一寸法師。さあ、山で取れた大きな栗だよ」

「わあ!おいしそう!」


 ああ、また太っていきます。


 

 夕飯もおじいさんやおばあさんより多い量を食べてすっかり満足な一寸法師は、夜も仕事をする二人のかたわらで、一人遊びを始めました。


 その名も『おままごと』。


「今日は美味しいお肉がとれたね、じょせふぃーぬ」

「そうだね、めろあんぬ。これならお肉の帽子がつくれちゃうね」

「そうだね、服もつくれるかな?」


 謎の会話を交わさせながら、一寸法師は楽しそうです。まんまるの頬を柔らかい笑みの形にして、等身大の人形の手を握ります。


 ちなみに一寸法師の役はというと……。


「そのお肉、全てわたくしによこしなさい。わたくしが美しい指輪を百個ほど作ってさしあげますわ」

「嫌だよ、のーあんおばさま」

「それはわたしたちが一生懸命噛みついて捕まえたんだよ」


 憎まれ役の二人の女の子たちのおば役なのでした。


「じょせふぃーぬとめろあんぬの二人は、噛みついてまで獲物を捕らえたんだね」


 すごいわね、と目を輝かせるおばあさん。今やこうたおやかなおばあさまですが、昔は『魔の刃』とまで言われて恐れられた歯を使って獲物を捕まえる、腕利きの猟師だったのです。


「さつきさんを怒らせてはいけないぞ、一寸法師。指くらい簡単に嚙み切られるからな」

「あらトムさん今なんと言って?」

「いや何でもない何でもない……痛い痛い!腕は痛いぞさつきさん!」

「ついでにお腹もやってあげましょうか?フフフフフフ……」


 高笑いをするおばあさんにおじいさんが顔を青ざめさせました。


「わあ、おじいさん、青の染料で染めた水ようかんみたいだ。おいしそう」

「そんなこと言ってる場合じゃないぞ一寸法師!笑ってないで助けろ!」

「いやあ、無理ですよぅ僕は!こぉんな小っちゃな体ですしぃ?はははははは」

「一寸法師っ!」

「あー聞こえませんねはっはっはっは」


 一寸法師はわざとらしく笑い声をあげておじいさんの声を遮ると、再びじょせふぃーぬとめろあんぬに向き直りました。


 ──そういえば……おじいさんが前に話してくれたな……山の下の都には、こういうお人形がいっぱいあるって。


 それも、もっときれいで、髪の色が変わったり、本物そっくりの可愛い人形。


 確か──『りまちゃん』とか。


 一寸法師は手の中にある、みすぼらしい木の人形を見つめました。自分で作った時は上出来だと思いましたが、今思うとささくれだった木の肌は不健康そのもの、鳥の巣からもらってきた何かのかたまりで作った髪の毛は、もうほとんどありません。


 一寸法師は急に悔しくなりました。もっと、いいのがあるのに、なんで気づかなかったんだろう。


 一寸法師は決心しました。よし、都に行こう、と。


 一寸法師は顔を引き締めて、二人に向き直りました。


「おじいさん、おばあさん。僕は都に行きます!そして見聞を広める──もとい、りまちゃん人形を追い求めてきます!!」

「「……はあ?」」


 二人はぽかんと口をあけて呆けたのでした。まあ当然です。

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