一寸法師 二
その子供、一寸法師は、本当に小さな体でした。手のひらに乗せて遊べそうな大きさでしたが、可愛さは抜群でした。
生まれた時から生えそろっていた髪は漆黒でつやつやとし、まん丸の大きな目はすでに賢げで、頬はぷっくりと桃のよう。思わず突っつきたくなるようなほど、可愛らしい男の子です。
ですがつつくとか弱い一寸法師の骨が簡単に折れてしまうので、むやみに触れないのでした。
「でもこの子、結婚する時困りそうですねえ」
「こらさつきさん、そういうこと言わない。だいたいそういうの当たっちゃうから」
そうおばあさんを諫めるおじいさんも、とろけるような幸せいっぱいの笑顔です。
「この子には、たくさんのものを食べさせて、うんと大きくなってもらわないと」
早くもおばあさんは、孫の姿を夢見ているのでした。
次の日から、おばあさんは大量の食物を買いこんで、一寸法師のための食事を作り始めました。
山を下り、図書館から育児の本を借りてきたおじいさんは、家に入って思わず本を取り落としました。
「どういうことださつきさん!?」
机はおろか、床、さらには天井の
どこからこんな大量の皿をもってきたのでしょうか。中には紙皿もあります。
「さつきさんこれはどういう……」
「かかさまおかわり!」
「もう喋ってる!?」
腰を抜かしたおじいさんに、おばあさんはお玉をもってほほ笑みました。
「ほらみてください、あんなに立派になって。もう大人ですよ」
「冗談じゃない!あほじゃないのかさつきさん!」
「あほじゃないです!私はちゃんと栄養を考えました!」
「そっちじゃない!」
ケンカをはじめた二人をよそに、一寸法師は最後の料理、ニラレバ炒めをぺろりと平らげると、そのまま眠ってしまいました。
「かかさま優しいな……でもあのおじいさんは誰だろう」
一寸法師はおばあさんの姿しか見ていないため、おじいさんを知らなかったのでした。
「ああ、あんなところで眠ってしまって……」
ほら、ちゃんとお床で眠りなさい、とおばあさんはかつてないほど優しい手つきで一寸法師を抱き上げ、小っちゃなお手製布団に寝かせます。
と、ぴょこん、と音がして、一寸法師の体が一つ大きくなりました。
「ね?どんどん大きくなっていくんですよ。ぴょこんって」
「RPGの世界じゃないんだから……」
疲労困憊のおじいさんは、RPGってなんですか、と聞くおばあさんをよそに一寸法師の横に寝転がりました。
「ああ!『来週 プリクラ ゲットする』ですか?」
「もう意味が分からんぞさつきさん」
それに一寸法師、横に伸びてないか、とおじいさんは呟きました。
「気のせいですよ」
「気のせいだといいんだが」
ですがこういう予感は、だいたい当たるものです。
これを山の下の都会では、「ぷらぐ」と呼んでいるとかなんとか。
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