第4話

 案じていたところへ先生とおかみさんがやってきた。


紫伊奈シイナはいないか?」


「見てないですけど。どうかしたんですか?」


「ああ、伝承を聞いてから姿が見えなくてな」


「仲沢さんが探してたのは見たんですが」


「そうか。何か見たら知らせてくれよ」


 さっき探していた仲沢里奈が髪を乱し、涙を浮かべ先生に詰め寄った。


「亜喜美の荷物もないの! 先生探してよ。間違って海に入ったらどうするの!」


 後ろにいた女将さんが同意する。


「そうですわ。この海域は夜に見せる姿がまるで違いまして。

 華奢な女の子を放っておくわけにはいきません。

 地元の漁師に連絡しますわ」


 女将さんが慣れている人を手配してくれるようだ。


「分かりました。では大人しくしていなさい」


 そういって先生たちの緊急会議が開かれた。


「会議の間ウチらは待機ってか。

 これで雰囲気が悪くなるってこと頭に入ってんのかねぇ」


 それを言うのも無理はない。

 部屋を越えてザワザワと落ち着かない空気が流れる。


 耳を澄ませば恐怖が滲むクラスメートの声が聞こえる。


「亜喜美達が居なくなったって言うけどしゃれになんなくない?

 あんな伝承聞かされて……」


「確かに! 伝承が本当に起きなきゃいいけど」


「怖くねぇ?」


「マジやばいって。もういやだ」


「伝承通りに進んだらどうなるの?」


 今度は各部屋に聞いて回る女子が現れた。


「ねぇ。朝霞さん知らない? 

 トイレ行くって言ってもう三十分経ってるんだけど」


「マジかよ。朝霞さんて成績どれくらいだっけ」


「ちょっと。そんなこといわないで」


 みんな、もう冷静ではいられない。


「私、先生に聞いてくる!」


 そういって花梨は走り出した。

「ちょっと、花梨! 1人じゃ危ないからついてくよ」


 学級委員で責任がある立場だったから真っ先に動いた。


 廊下を走って職員用の部屋までいくと違和感があった。

「笑ってる?」

 和室から漏れ聞こえてくるのは談笑しているらしい声。

 それに耳を傾けてみると……

「まぁいまどきの子だからあそびたいんだろう。

 すぐに帰ってくるさ。

 わざわざ私達が探さなくても朝になれば」


「そうですな」


 危機感のない教師たちに一言言うために私たちは入って行った。


「失礼します。朝霞さんの行方が分からなくなりました。

 念のために成績を教えてください」


 他の生徒に噂を流されないようにしたいのか、

 教師たちは必死に取り繕う。


「だがこれは個人のプライバシーにかかわることで」


「でしたら成績の下位者を呼び出して、これから警戒して下さい」


「解った。残っているものでは高橋からだろう」


「おねがいします」


 頭を下げてとぼとぼと部屋に戻っていくと

 部屋は重苦しい雰囲気に包まれていた。


「ただいま。みんな。

 先生たちちゃんと考えてくれてるから大丈夫」



 半ばやけくそになって声を張り上げると

 大人しめでわりと話す仙崎さんが説明してくれた。


「ねぇ。女子は固まっていようって話になってるんだけど

 3人部屋しかないじゃない。どうする?」


「ベッドがそれしかないんだからしょうがないでしょ」

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