第3章 見知らぬ世界 〜 地下室(3)
地下室(3)
そして同じ頃、そんな金田のことなど知りもせず、愛菜は1人高級ホテルにいた。本来は、矢島の出社中にと決めていたのだ。ところが夕食時のゴタゴタがあって、思わず家を抜け出し来てしまった。本当ならもうとっくに、呼び付けた金田もやってきていい頃なのに、姿を見せるどころかメール一つも送って来ない。
――まったく! 何グズグズやってるのよ!
そんなイライラが最高に募って、テーブルにある携帯電話を手にしようとした途端だった。金田専用の着信音が鳴り響き、驚いて思わずその手から携帯を落としてしまう。
――もう! 何よまったく!
愛菜は更に不機嫌な表情を見せ、床に転がった携帯を拾おうともしなかった。何か生き物のようにぶるぶると震える携帯をじっと見つめて、
「出てなんてあげないわよ!」
真面目な顔してそんな独り言を口にする。しかしいつまで経っても着信音は鳴り止まない。すると次第に考え込むような顔付きになって、愛菜は携帯電話のすぐ傍にしゃがみ込んだ。
きっと、また何かあったに違いない。さっきダイニングにいた矢島は、どう考えても普通じゃなかった。だからまた、〝誰かに狙われている〟とか言い出して、金田の手を患わせでもしたのだろう。彼は愛菜に言っていたのだ。
「俺たちの為だろうがなんだろうが、香織が上手くやってくれさえすれば、どっちにしても結果はおんなじだ。それどころか、ご主人があいつと本気になってくれたら、俺たちにとっては最高にやり易くなると思う。香織と結婚したいなんて言い出してきたら、完全にもうこっちのもんだよ。だからあなたは、とにかくご主人にとことん嫌われればいい。そして俺の方は、何をガミガミ怒鳴られようと、ただ黙って仰せの通りに従うだけだ。万一俺の方が調べられでもしたら、そこですべてが、ジ、エンド、になるんだからさ……」
調査結果の改ざんや、そもそも谷瀬香織の履歴書なんてデタラメもいいところ。だからきっと、こんな遅刻も仕方がない。愛菜はそこまで思って、やっとその着信に出る気になった。
「許してやるか……」
誰もいない部屋でそう呟いて、聞き慣れたメロディを奏でる携帯電話を拾い上げる。畳まれているのを片手で器用に開き、愛菜はようやく、それを耳元に持っていった。
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