第3章  見知らぬ世界 〜 地下室

 地下室




「おまえは何だ! いったいどうして! おまえはそんなところにいるんだ!?」

 あまりに突然の声だった。

「そこでいったい何をしている!」

 激しく突き上げる動きが止まると同時に、矢島の怒号、続いてもの凄い衝撃が後頭部を襲った。気付けば身体は宙に浮き、腰から背中を大理石の床に叩き付けられる。そしてその時、後頭部を思いっきり打ち付けてしまった。焦げ付くような匂いを鼻先に感じて、フッと意識を失いかける。目の前が真っ暗になり、深い闇の中へ落ちていくのをはっきりと感じた。その時、漆黒の闇の中から、

「おまえは悪魔か!? 俺に取り憑いているのはおまえなのか!?」

 微かにそんな声が聞こえてくる。

 ――ころ、される……。

 ふとそう思った瞬間、一気に明るい光が舞い戻った。眩しい! と感じるのも束の間、すぐに後頭部から臀部にかけて、電流が流れたような激痛が走る。思わず右手を腰に、左手は当てもなく宙を彷徨う。すると左手が堅いものに触れて、香織は瞬時にそれがなんであるかを悟るのだった。

 香織は矢島に突き飛ばされ、車椅子のすぐ傍まで吹っ飛んでいた。もしあと数十センチずれていれば、香織は身体ごと大型車椅子に突っ込んでいただろう。ただとにかくすれすれのところでそうはならず、左手は車椅子にぶら下がる何かをしっかりと掴んだ。

 ぼうっとする意識の中で、

 ――おまえは悪魔か!?

 矢島の声だけが香織のすべてを支配する。

 殺される!? そして死への恐怖が、すぐに強烈なる怒りへと変わった。 

 ――殺されてたまるか!!

 身体中でそう叫び、香織は掴んだものを思いっきり引き抜く。すると繋がれていたベルトシースが外れて、剥き出しのサバイバルナイフが目の前に現れ出た。その瞬間、香織の全身に電気が走った。バシッという音が聞こえて、全身の痛みがスッと消え去る。

「殺されて、たまるか……」

 香織は独り言のようにそう呟いて、目の前にいる巨体目掛けて走っていった。

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